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受験生の親にひろがる“男子校嫌い”

 実際、ある国立難関大学医学部の現役学生もこう話す。「都立日比谷が第1志望だったんですけど、落ちちゃって、開成に進学したんです。僕は開成でよかったんですが、親は『学費もかかるし、男子校なんて嫌だ』と不満げでした」

 彼の親のように、昨今は、男子の保護者の間でも共学志向が高まっている。単純に学力を伸ばすだけなら男子校はいい。男子校では、異性の目がないから、男の価値観が純化される。「勉強はできても彼はイケてない」という女子の批判的な視線も存在しない。結果、男子たちは学力を伸ばすことに集中できる。

 しかし、それを良しと思わない保護者や受験生が増えてきた。学力以外の人間性や社会性を育てていくためには、共学の方がいいと判断するトレンドが高まっている。そういう時流も都立や県立の高校には追い風になっている。

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 このトレンドにあらがうために、開成にできるのは、学費の面での工夫だろう。そこで開成は奨学金を導入したわけだ。この奨学金を受け取る条件は、一定の所得以下の家庭の子息で、開成に合格したら必ず入学する意思があることだ。つまり、「授業料を免除するから、開成を第1志望にしてほしい」というわけだ。

開成の“勝算”はどこにあるのか?

 この制度は学費を抑えたい受験生側にはメリットがあろう。たとえば、第1志望が国立附属、第2志望に都立日比谷、第3志望は開成と設定すると、第1と第2志望に落ちて、開成に入学すると3年間、学費がかかる。しかし、最初から開成を第1志望にし、奨学金を取得すれば、学費を安く抑えて、3年間を過ごせる。

 開成の高校入試は、100人の定員に対して、奨学生の募集は10人程度だ。つまり、10%は第1志望を開成にする子たちが入ってくる。しかも、なにがなんでも学費を抑えたいと思う家庭の子たちだから、中学入学組の生徒とは毛色が違う。中学受験で開成に入ってくるのは、教育費には糸目をつけないという家庭の子息たちがほとんどだからだ。

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 また、文部科学省の意向で、国立大学附属校の入試を学力重視から面接重視にし、脱エリート校化を進めるという動きもある。そうなると、今まで筑波駒場に進学していた学力トップ層が開成に流れてくる可能性もでてくる。それを見越しても、開成は現時点では高校入試を続けるメリットがあると判断しているのだろう。

 しかし、それはあくまでも2020年現在の視点だ。2011年に私が中学受験を取材したときは、都立一貫校は進学実績が伸びず、失敗ではといわれていた。しかし、現在は進学実績も入試の難易度も上がっている。ITが普及した現在、情報や価値観の変化は速い。その中で、最高峰の私立難関男子校の開成がどう進化していくのだろうか。注目していきたい。