東大合格者数No.1の開成中学高等学校。日本屈指の難関校だ。この開成中学が来年度から新入生向けに“授業料免除”の『開成会道灌山奨学金』を開始する。

 一見、不思議な話である。中堅校が学力の高い生徒を確保するために、“授業料免除”の特待生を募集することはあるが、難関私立ではまずありえない。開成は中学入試で偏差値71(※)と全国でトップの水準であり、ほっておいても地頭がよく学力も高い生徒が入ってくるのだから。

開成中学高等学校 ©文藝春秋

開成の狙いはどこにあるのか?

 しかし、奨学金の条件を眺めると開成の狙いが分かってくる。まず、受験前に奨学金への応募受付を終わらせる。そして、主な条件は「年間所得218万円以下、または給与収入のみの場合収入額400万円以下の世帯の子弟」「合格したら必ず開成中学に入学する意思がある者」である。入試での成績の順位や点数は問わない。ようは、経済的に余裕がない家庭の子供を、受験前に囲い込もうということだが、なぜ、天下の難関私立中学がこのような試みをするのか。

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 その理由には、中学入試の質の変化があるように思える。今回は、中学受験が課金ゲーム化している現状と、それに開成がどう対抗しようとしているかをみていくことで、日本のエリート教育の変化について考えてみたい。

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お金をかければかけるほど、勝てる確率は上がっていく

 中学受験をテーマにした『二月の勝者』(高瀬志帆・小学館)という人気漫画がある。この中で、受験生の母親が「中学受験は課金ゲーム」と言い切るシーンがある。この台詞に心から共感できた人はどれだけいるのだろうか。「いくら金をかけても本人にやる気がなければ仕方ないのでは」と思う人もいるはずだ。

 しかし、2019年現在、中学受験が課金ゲーム化しているのは事実だ。それを説明するために、まず、アプリゲームの課金システムをみてみよう。私はゲームが得意ではない。その私とゲーム達人の小学生がアプリゲームで同じ条件で対決したら、確実に私は負ける。しかし、私が大人の経済力を駆使し、課金しまくったら、情勢は変わるだろう。私がガチャを回しまくり、強い武器を入手し、それを使って戦えば、勝利する可能性は大になる。

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 中学受験も同じ構造になっている。お金をかけても100%勝てるとは限らない。だが、お金をかければかけるほど、勝てる確率はどんどん上がっていくのだ。少なくとも課金ゲームと同じレベルには、金のかけ方が合格不合格に影響する。

※開成中学の入試偏差値は日能研予想R4、2019年10月16日版を参考にした。