7月28日深夜、北朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星14型」の発射実験を行った。

 文在寅大統領がドイツで華々しく謳った朝鮮半島の平和構想「ベルリン構想」から3週間、南北軍事当局者会談を提案してからは11日後のことだった。

「文大統領は実験の2日前には発射予兆の報告を受けていたといいますが、相当、当惑したようです」

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 韓国の全国紙記者が続ける。

「ベルリン構想は、朝鮮半島の非核化、北朝鮮を吸収統一しないなどの平和構想を盛り込んだもので、南北間では10月の離散家族面会の再開、2018年平昌冬季オリンピックへの北朝鮮の参加、そして、朝鮮戦争休戦協定日(7月27日)を機に南北の軍事境界線での敵対行為を互いに中止し、南北間の対話を再開するという4つの具体案が挙げられました。

 いずれも現状からは実現が厳しいとみられましたが、北朝鮮と対話した成功体験がある文大統領にとっては、決して“妄想”などではなかったでしょう。一進一退を繰り返しながらも実現に向けて進んでいけばいい、そう思っていたはずです」

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文在寅大統領のラブコールも虚しく

 7月17日には、さっそく「ベルリン構想」実現の第一歩として、離散家族面会再開のための協議と、同21日に南北軍事当局者会談を開催することを北朝鮮に呼びかけた。

 しかし、北朝鮮は労働新聞を通じて「世論を欺瞞する行為としか言いようがない」(7月20日)と反発するも公式表明はなく、韓国国防省は返答期限をさらに27日まで延長した。ところが、今度はなしのつぶて。

「政府関係者もあれこれその背景を探っていましたが、なんの反応もないのでもどかしいと漏らしていました」(同前)。

 元国防省出身で、南北軍事会談にも携わった人物はこんな見方をしていた。

「北朝鮮が会談に臨む準備は徹底しています。資料の言葉ひとつひとつまで精査しているだろうと感じられるほど緻密で、決して指摘されたり、追及されたりすることがないよう周到に準備していました。21日の軍事当局者会談は準備ができていなかったのではないでしょうか」

 しかし、韓国からのこうしたラブコールに北朝鮮から返ってきたのは「ミサイル発射」という衝撃的な意思表示だった。

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ICBMの性能が高まった

 今回の北朝鮮によるICBM発射実験はこれまでとは次元が異なるといわれる。

「性能が上がったこともありますが、北朝鮮は今回の実験で攻撃と防衛の2つの能力があることを知らしめました」と韓国の北朝鮮専門家は話す。

「実験を行った深夜は、米国では朝の時間帯になります。ミサイル発射実験は通常、空気が乾いた朝方に行われるものですが、意表をついた。これによりいつでも攻撃ができることを誇示しました。そして、予想されていた場所とは違う、中国との国境近くから発射したため、どこからでも攻撃できること、そしてその場所が他国にとっては攻撃しづらい場所でもあることから、防衛能力を持ったことも示しています。

 おまけに、7月4日に行った第1次ICBM発射実験の時よりも性能が上がっていた。これは第1次の時は抑制していたのではないかという疑惑も出ていますが、いずれにしても、最高高度は前回よりも922km延びた3724.9kmとなり、飛行距離も998km。正常な角度で飛ばせば1万km前後まで飛ぶと換算される。北朝鮮が『米ニューヨークも圏内』と豪語しましたが、ミサイルを飛ばせることは立証された形です」