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 北京の診療所で診療しているので、発熱患者は全員、WHOが定義するSARSの「suspected case」に相当します。毎日のように「フル装備」で発熱患者を診療し、疑いの強い患者は「SARS指定病院」に搬送しました。元気な患者は自宅で療養してもらい、そのまま回復を待ちました。

 基本的にSARSはウイルス性の感染症で、抗生物質は効きません。有効な治療薬もないため、入院させるメリットは、重症時の「全身管理」だけなのです。

 しかし、そのような全身管理を「SARS指定医療病院」に全例丸投げすると、医療リソースは枯渇(こかつ)しますし、なによりも医療者内での院内感染のリスクになります。SARSはとりわけ医療者に多く患者が発生したのが特徴でした。

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SARSが大流行した2003年の北京。移動診療所で検査を受ける人々 ©AFLO

「なんでもかんでもとりあえず入院」がダメな理由

 SARSの迅速診断キットは存在しないので、「SARS疑い」で後方病院に搬送しても、実は本当にSARSなのかは判然としません。検査の結果が出るのに、当時たしか数日はかかりました。もしSARSでない発熱患者を間違って指定病院に搬送したら、病院内でその患者はSARSコロナウイルスをもらってしまうかもしれません。

 医療者にとっても患者にとっても、疑い例の指定病院への搬送はこのようにトリッキーな行為でした。ですから、元気な患者はできるだけ自宅療養してもらい、電話などで安否の確認や症状の回復を確認したのです。

 このときの体験は2009年の「新型インフルエンザ」の対応でも応用されました。当時、「なんでもかんでもとりあえず入院」という厚生労働省の方針に批判的だったのはそのためでもあります。病原体だけでなく、患者の状態も鑑みて臨床判断はなされなければならないのです。

 SARS疑いの診療は、私自身に対する感染のリスクでもありました。感染、発症したらどうしようと、毎日恐怖感を覚えながら診療していました。2003年の夏になり、患者が発生しなくなり、診療が通常化したときは、本当にほっとしたものです。

では、SARSとはどんな感染症なのか?

▼どの感染症が

 SARS(サーズと読みます)は、「severe acute respiratory syndrome」の略で、日本語では「重症急性呼吸器症候群」と名付けられています。でも、みんなサーズ、サーズと呼んでいますね。

▼病原微生物は

 SARSコロナウイルスというウイルスです。