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新型肺炎 クルーズ船“告発医師”がSARS大流行の北京で経験した「修羅場」とは

2020/02/21
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中国ではSARSにステロイド治療が行われていた

▼どのように治療するのか

 治療方法は確立されておらず、対症療法のみです。中国ではステロイドを実験的に用いるケースが多かったですが、そのせいで骨壊死の合併症が増えました。お勧めできないようです。

▼治療効果はどれくらいか

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 前述のように死亡率は10%程度。有効な治療法はなく、かなり厳しい病気のひとつです。

「ガウン、帽子、N95、手袋、シューカバー、ゴーグル」のフル装備

▼どのように予防するのか

 残念ながら有効な予防接種はありません。

 SARSはヒト-ヒト感染をしやすいのが厄介なところです。とくに2002~2003年の流行では、医療従事者の院内感染が多く、問題になりました。高い死亡率も鑑み、かなりガードを上げた徹底的な感染防御が必要になると思います。

 私も北京時代は、SARS疑いはフル装備で診ていました。ガウン、帽子、N95という特殊マスク、手袋、シューカバーをし、必要に応じてゴーグルも着けました。

 患者は陰圧のかかった個室で管理し、室外にウイルスが出ないようにします。医療者はN95と呼ばれる特殊な呼吸器感染防御用のマスクをし、ガウンをし、手袋をし、シューカバーをし、帽子をかぶります。気管内挿管などが必要になったら、目を守るためにアイシールドも必要です。アルコールによる手洗い(手指消毒)も必須ですし、検体の管理や患者の吐物や下痢便の管理なども徹底的に、プロフェッショナルに行ないます。

 一方、患者を隔離しながら搬送するテントのような器具はまったく使いませんでした。患者を横にして(不謹慎な表現ですが)棺桶のような大きさのテントに入れるのですが、これだと点滴一本落とすのも難しいですし、気道の確保も心臓マッサージもできません。「机上の空論」で考えられた無用の長物だと我々は判断し、倉庫に放置されたままでした。

 2014年のエボラ出血熱においても、日本にやってきた患者をこの「テント」で搬送する計画があるようですが、やめておいた方がよいと私は思います。運転手と後方だけ目張りなどで隔絶し、あとはPPE(個人用防護具)をきちんと着用して搬送する方が現実的です。

▼予防効果はどのくらいか

 通常医療機関で用いる不織布のサージカルマスクよりも、結核患者などに使う特殊なN95のほうが予防効果は高いとされます(Loeb M et al. SARS among critical care nurses, Toronto. Emerging Infect Dis. 2004 Feb;10 [2] : 251-5)。徹底した感染管理により、院内感染は最小限に抑えることが期待できると思います。

▼どうやって今回の問題を終息させるのか。その見通しは

 現在は問題になっていませんが、将来の見通しは立っていません。

▼法律的な分類

 これは2類の感染症になります。指定医療期間に搬送、治療となります。

こちらは、2月19日、野党議員のヒアリングにビデオ通話で応じる岩田健太郎神戸大教授 ©共同通信社

岩田健太郎(いわたけんたろう)

1971年島根県生まれ。島根医科大学(現・島根大学)卒業。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院を経て、2008年より神戸大学。神戸大学都市安全研究センター医療リスクマネジメント分野および医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学病院感染症内科診療科長。

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