いまから60年前のきょう、1957(昭和32)年8月4日、岸信介内閣の文部大臣・松永東が、大阪での記者会見で当面の文教政策について自らの構想を表明、そのなかで「民族意識や愛国心の高揚のために道義に関する独立した教科を設けたい」と語った。

 戦前の学校教育では修身科が道徳教育を担った。だが修身は、連合国軍総司令部(GHQ)の指令を受けて戦後廃止される。代わって、道徳教育は学校教育全体で進め、とくに新設の社会科で社会についての科学的認識を育て、それを基礎にして道徳的判断力を育てるという方針がとられた(『世界大百科事典』平凡社)。松永はこれに対し、「倫理というか、修身というか、そういったものを小、中学生に“濃厚に”教えこまねばならない。それにはいまの社会科では不十分だし、全教科の中で教えるということではボケてしまう。はっきり独立の科を設けた方がよい」と、再検討をうながしたのである(『朝日新聞』1957年8月4日付夕刊)。

1957年7月10日、第1次岸内閣が発足。松永東文相は前から2列目・左から2番目 ©共同通信社

 翌5日の会見で松永はさらに「この独立教科は、来年度からでも実施に移すつもりで、すでにそのための準備を事務当局に指示した」旨をあきらかにした(『朝日新聞』1957年8月6日付)。文部大臣の諮問機関である教育課程審議会が同年10月に決定した方針(答申は翌年)では、道徳教育は各教科全体のなかで行なうとの従来の体制は崩さないとして、教科化は見送られる一方、道徳教育のための時間を特設することになる。これにもとづき文部省は「小・中学校における道徳教育の実施要綱」を通達、58年4月より多くの学校で「道徳」の時間が始まる。さらに同年8月には、道徳教育を義務として徹底すべく、学校教育法施行規則を一部改正し、道徳の時間を明確に教育課程に組み入れ、新たに「小・中学校学習指導要領・道徳編」が制定・告示され、9月の新学期より実施にいたる。

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 教育課程のなかで義務づけられたとはいえ、以後も半世紀以上にわたって、国の検定を受けた教科書を使い、児童・生徒を数値も使って評価する「教科」に道徳は一線を画してきた。だが、2015(平成27)年3月、前年の中央教育審議会の答申を受け、学校教育法の施行規則が改正され、道徳は「特別の教科」へと“格上げ”が決まる。背景にはいじめ問題などがあった。実施は、小学校では来年度(2018年度)から、中学校では2019年度からとなる。

岸信介(右端)の内閣で「道徳」教科が設置され、孫・安倍晋三(左端で抱えられている子ども)の代で“格上げ” ©文藝春秋