情報の少なさが、ものすごく魅力になっていた
―― これからの『ANN』、そしてラジオはどうなっていくと思いますか?
近衛 全体的に言えるのは、原点に戻るというか、もうちょっとシンプルになると良いと思いますね。
―― 最初にお話しされたように、金魚鉢に一人、副室に一人ということですか?
近衛 初代パーソナリティの糸居五郎さんから言われて、すごく印象に残っている言葉があるんです。「君ね、深夜放送というのはどんな気持ちでやるかっていうとね、真夜中はみんな寝てると思うだろ。でも、布団の中で聞いてるやつがいっぱいいる。暗いけどみんな起きてるんだ。俺は東京タワーのてっぺんにいて、そこから明かりが消えかけている家々に向かって話しかける。そういうイメージでやってるんだ」って。なるほどと思った。
―― パーソナリティが、リスナー一人一人に話かけてるイメージなんですね。
近衛 だから、ラジオにハガキが圧倒的に来たのは局アナの時代なんですよ。聞いている人は、パーソナリティの顔を誰も知らない。これが大事なんです。顔は知らないんだけど、親しく喋りかけてきて、自分のハガキにリアクションしてくれる。情報の少なさが、ものすごく魅力になっていたんだと思う。
―― だから知られてない人を抜擢して起用するという流れがあったんですね。
近衛 知られちゃったら、少なくとも深夜は終わりみたいな感じだったね。今は隠したってインターネットでどんどん出るけどね。でも、それならそれでやり方があると思うんですよ。
―― なるほど。そこが今も変わらないラジオの特性なんですね。
近衛 よくオンリーワンのメディアって言うけれども、ここでしか聞けないみたいなものって、どんなにインターネットが浸透しても絶対ある気がするんですよ。もちろん難しくて、針の穴を通すようなものかもしれない。それでも、『ANN』はこれからもチャレンジしてゆくと思いますよ。
このえ・まさみち 1946年東京生まれ。早稲田大学第一政経学部卒業。早大「モダンジャズ研究会」に所属し、学生ジャズ研連合による来日中のジョン・コルトレーンのインタビューにも携わる。68年、ニッポン放送入社。76年からオールナイト・ニッポンのチーフプロデューサー。ニッポン放送常務取締役を経て、現在ニッポン放送監査役。ジャズ研究家・岡崎正通としても活躍する。
写真=鈴木七絵/文藝春秋