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悪名高い外交家・タレーラン、パリ条約でフランスを救った「大胆すぎる屁理屈」とは

“悪辣な政治家”・タレーランから学ぶ外交戦略 #2

2020/02/26
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たった一人で「正統主義」を掲げ、賠償金をゼロに

 そしてタレーランはブルボン家を復活させるに際して、正統主義(legitimacy)原則という理屈を持ち出した。

 この正統主義とは、(1)ヨーロッパの政治と外交は、正統な王家を代表する諸政府によって運営されるべきである、(2)ヨーロッパの平和と安定に対する加害者は「王権簒奪者」であった革命派とナポレオンだったのであり、ブルボン家は被害者であった、(3)したがって被害者であるブルボン家には、革命前のフランスの領土と権力を回復する正当な権利があり、ヨーロッパ諸政府はブルボン家が再び君臨しているフランスを処罰すべきではない、という理屈である。

 実にブリリアントな屁理屈である。タレーランがこの正統主義の理屈を持ち出し、それを戦勝諸国に呑ませれば、戦勝国はフランスを処罰する根拠を失う。そして弁舌が巧みで行動力のある外交家タレーラン(革命政府とナポレオン帝政に積極的に加担したタレーラン!)は、たった一人でこの「正統主義」という屁理屈を戦勝諸国に呑ませてしまったのである。

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エトワール凱旋門 ©iStock.com

 その結果、1814年5月にナポレオン戦争を終結させるために結ばれたパリ条約では、フランスが革命前の領土をすべて回復することが認められ、しかも賠償金はゼロであった。革命政府とナポレオンがヨーロッパ諸国にあれほど巨大な損害を与えたにもかかわらず、フランスは処罰と復讐を逃れたのである。