「僕はかみさんにもマネージャーにも伝えてるよ。植物人間になっても生きるということは全く必要ない。85歳になった今も、まだやれることやできることはあるかもしれないけど、そんなことを考えたらきりがないですからね。いい加減、どこかで『やりつくした』『ここまでやったんだからもういいでしょう』という気にならないと。そしてそのことを周囲にも納得させておかないとだめなんですよ」

 そう語るのは脚本家の倉本聰さん。10年ほど前、緩和医療をテーマとしたドラマ「風のガーデン」を手掛ける中で尊厳死についても考えるようになり、80歳を過ぎていよいよ老いや死を意識する中で、2年前には日本尊厳死協会の顧問にも就任した。

 自分の病気が治る見込みがなく死期が迫ったときに延命治療を断る「リビング・ウイル」にも登録し、会員証も持っているという。

ADVERTISEMENT

倉本聰氏

「死の間際の苦しさがよくわかるんです」

「知り合いに鼻から管を入れられて酸素を送り込まれている男がいるけど、嫌がって自分で管を取っちゃうんですよ。そうすると管を取らないように、手にミトンのようなものをつけられて縛られちゃう。人間扱いされていないんです。

『人間の命の価値は何よりも尊い』なんて言葉があるうえに、医学が進歩したので生かしておけるから生かすんだという、ある意味では、はた迷惑な思想もでてくるんです。本人の意思と関係なく、たとえ意識がなくなっても生かしておくことがヒューマニズムということになっちゃってるわけですよね」 

 倉本さんは自身の父親を見送ったときの記憶が「尊厳死」につながったと語る。

「僕は、親父も婆さんも目の前で死にゆくのを見届けているので、死の間際の苦しさがよくわかるんです。そこに立ち会った人間として、もう少し楽にしてあげたかったという気持ちはある。それが尊厳死につながるんじゃないですか」