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中居くんは実のところ何も言ってはいなかった

 中居くんのテレビ番組とは、中居くんがMCで脇に実力のある中堅芸人か何かを置きつつ、ゲストをほどよくいじり、企画はつつがなく進行される。毒もなくだからといって媚びもなく、覚えているほどの内容はないけど、ああテレビを見たという気にさせてくれる。あの会見はまさにそれでした。

 中居くんは実のところ何も言ってはいなかった。たくさんしゃべっているのに何も言ってない、それこそ中居くんがテレビの世界で成功した秘訣だと思うのです。自分の主張をしないから、安心してキャスティングできる。「ナカイの」とつくものはだいたい間違いない。

©文藝春秋

「中居はテレビでしか生きられない人だから」これはSMAP育ての親・飯島三智氏が関係者に漏らしたとされる言葉です(週刊文春2019年4月25日号より)。「テレビでしか生きられない人だから」あの日手の甲をつねってでも「テレビの外」に飛び出てしまうことを我慢したのかもしれない。そしてまた一世一代の会見でも「テレビの人」であることを選んだ。

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 あくまでテレビ的に「中居くん、攻めてる~」と視聴者に思わせるライン、たとえば「夏から秋にかけてお話をしようと思ったんですけど、また誰かがやめるとか、誰々が抜けるとかあって、バタバタしていて」とか「世界……って言っちゃいけないんですか?」etcを笑いでなぞりながら、SMAP解散について、新しい地図が地上波に出られないこと、キムタクとの不仲説など核心をつく質問に関しては「1%から99%の中で模索している」に代表されるような、玉虫色の回答でお茶を濁す。「CMの後もまだまだ続く!?」と思わせて、また来週~と終わってしまった感じでした。

「ジャニーズを辞めたら地獄に堕ちる」という呪いの片棒

 ひたすら耳ざわり良く、会見は終わりました。なんなら「ジャニーズのタレントがこんな穏やかな形で事務所を辞められるなんてすごい! これが令和か!」とも思いました。でも、いやちょっと待って。「ジャニーズのタレントが円満退社できるなんてすごい」って思ってるお前、そもそも誰ですか。だってそれって「ジャニーズのタレントが円満退社などできるわけない」という共通認識の上に成り立つ「驚き」だから。「ジャニーズのタレントは辞めたら地獄に堕ちて仕方ない」という呪いの片棒を、気づかないうちに担がされていたんじゃないか、私。そう思うと少し怖くなりました。まさにこの会見が、そんなたくさんの「片棒」で支えられているように思えたからです。

 それは「●●と△△は派閥が違うから共演できないんだよ」ということが、当たり前のように語られることのおかしさだったり、なんなら日本の芸能界で長年非ジャニーズの男性アイドルが活躍の場を奪われていたことだったり。公共の電波なのに、僕たち私たちのエンタメなのに、そこにずっと歪な力が働き続けた結果、それがいつしか私たちの脳内に常態化して常識化して、国民総なんちゃって業界人みたいになってしまったんじゃないかって。