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黒々とそそり立った津波の第一波
たちまち村内は、騒然となった。家々からとび出した人々は、闇の中を裏山にむかって走り出した。人の体に押されて倒れる者、だれかれとなく大人にしがみつく子供たち、土の上を這う病人、腰の力が失われて坐りこむ者など、せまい路上は人の体でひしめき合った。
その頃、黒々とそそり立った津波の第一波は、水しぶきを吹き散らしながら海上を疾風のようなすさまじい速度で迫っていた。
湾口の岩に激突した津波は、一層たけり狂ったように海岸へ突進してきた。逃げる途中でふりむいた或る男は、海上に黒々とした連なる峰のようなものが、飛沫をあげて迫るのを見たという。
津波は、岸に近づくにつれて高々とせり上り、村落におそいかかった。岸にもやわれていた船の群がせり上ると、走るように村落に突っこんでゆく。家の屋根が夜空に舞い上り、家は将棋倒しに倒壊してゆく。
すでに第二波の津波が頭をもたげていた
やがて海水が、逆流のように急激な勢いで干きはじめたが、沖合には、すでに第二波の津波が頭をもたげ進み出していた。たちまち第一波のもどり波と第二波の津波が海上で激突した。
高みにのがれてその光景を見つめていた或る者は、その2つの波の衝突によって高々と水沫が海上一帯に立ち昇り、ちょうど巨大な竜巻をみるようだと語った。
この第二波の津波が最大で、倒壊した人家と多くの人々の体は沖合にさらわれた。
津波は第六波までつづき、次第にその勢いを弱めた。
寒気はきびしく、山上にのがれた人々は焚火をして煖をとった。逃げおくれて負傷した者たちは、寒さに体の自由もきかず凍死してゆく者が続出した。
夜が、明けた。