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死者は911名、流失した人家は428戸に達した――

 田老は、一瞬の間に荒野と化し、海上は死骸と家屋の残骸の充満する泥海となっていた。

 田老、乙部は、わずかに数戸の民家と高地にある役場、学校、寺院を残すだけで、村落すべてが流失していた。死者は911名、流失した人家は428戸に達した。

 また一家全滅も66戸あった。その人数は333名で絶家となったのである。

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 その他、道路、橋梁、堤防等が跡形もなく破壊され、漁船909艘が流失した。

 田老村についで被害の甚大だったのは、岩手県気仙郡唐丹村本郷であった。

 この村落は、完全な潰滅状態におちいり、全戸数101戸中、実に100戸が流失、残された1戸も全壊していた。死者も多く、全人口620名中、326名が死亡、21名が傷ついた。

 下閉伊郡小本村小本の被害も大きく、118名の死者、77戸の流失をみ、また釜石町でも、234戸の流失、245戸の倒壊以外に、火災が発生し249戸が焼失している。この出火は、津波来襲後、町の中央部2個所から発したもので、津波がつづいていた頃であったため消火作業に手をつけられず、火炎は目抜き通りを焼きはらい、その後の消火作業で午前8時30分頃ようやく鎮火した。幸いこの町では避難が早かったため、死者の数は29名のみであった。

「吉村氏は徹頭徹尾『記録する』ことに徹している。(中略)圧倒的な事実の積み重ねの背後から、それこそ津波のように立ち上がってくるのは、読む側にさまざまなことを考えさせ、想像させる喚起力である」(解説・高山文彦)

 

三陸海岸大津波 (文春文庫)

吉村 昭

文藝春秋

2004年3月12日 発売