3月1日に行われた東京マラソンで、大迫傑が自身の持つ日本記録を更新し、2時間5分29秒でゴールした。日本人トップの4位。これで東京五輪代表入りが有力となった。

 ゴール前から喜びを爆発させる姿も、レース後のインタビューで安堵の涙を見せる姿もこれまで見たことがなかった。それだけに、彼が一人抱えてきたプレッシャーを改めて思い知った。

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常に不安や焦りに支配されて……

 昨年発売された大迫初の著書「走って、悩んで、見つけたこと」の打ち合わせで聞いた、ひとつの言葉を思い出した。

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「僕は不安をコントロールすることが得意ではない」

 言葉が多いタイプではない。それゆえ“自信家”と誤解されることも多いが、本人はこう自己分析していた。

「常に不安や焦りに支配されて、高校のときは両角(速)監督(現・東海大学陸上競技部駅伝監督)にもよく叱られていました。無理をして先頭について行ったり、ラストに仕掛けるべきところを焦って早々にスパートしたり、練習やレースで失敗をしたことをあげたらキリがない」

 それは結果を意識したレースのときほど顕著だった。

 ロンドン世界選手権の出場がかかった2017年のホクレン・ディスタンスチャレンジ網走では、参加標準記録にわずか1秒64届かず出場を逃した。

 元日本記録保持者・設楽悠太との直接対決と注目された昨年の東京マラソンでは、途中棄権を余儀なくされた。

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「目の前で誰が勝つかとか、色々言われる煩わしさから逃れて、ゆっくり競技に向き合いたいという思いもあって、アメリカに渡ったところもありました。長くアメリカで生活をするうちに、僕は不安をコントロールできるようになったと思っていたんです」

 だが、そうはならなかった。数々のメディアから取り上げられるプレッシャー、自身と乖離して作りあげられたイメージ……。昨年の東京マラソンで大迫は周囲の雰囲気に飲み込まれ、気づけば不安に支配されていた頃の自分に戻っていた。