オリックス・バファローズのオープン戦初戦となった2月23日のソフトバンク戦。「お試し」メンバーの目立ったソフトバンクに対してオリックスのスターティングラインナップには主砲の吉田尚、現役メジャーリーガー、アダム・ジョーンズが名を連ね、それが開幕を意識したものであることは一目瞭然だった。そのオリックスのセンターフィールドに立ったのは6年目の宗佑磨だった。

6年目の宗佑磨 ©阿佐智

オーストラリアのウィンターリーグで得たもの

 そのずば抜けた身体能力は早くから期待され、高卒4年目の2018年シーズン、初の開幕一軍入りを果たすと1番センターとしてレギュラーポジションを確保したかに思えた。しかし、初球からバットを思い切り振りぬくバッティングスタイルは、あらが目立つようになり、夏場を迎える頃には、彼の名はスターティングラインナップどころかベンチ入りメンバーからも消えてしまった。

 あの夏、彼のことが気になりファームの球場に足を運んだ。宗は相変わらず元気にプレーしていた。その試合、彼は三遊間を綺麗に破るヒットを放ったが、多くの打者のように球にバットを合わせるのではなく、一塁ベンチに体が向くまで振り切った状態で三塁手が一歩も動けないような鋭いライナーを放っていた。試合後、宗はそのヒットについてこう語っていた。

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「自分のスタイルは崩したくない」

「自分のスタイルは崩したくない」 ©阿佐智

 このオフ、彼はオーストラリアのウィンターリーグに武者修行に出た。アメリカに渡って自主トレを行うつもりであったのだが、球団の勧めに応じ、メルボルン・エーシズの一員として12月末までの滞在中、ほぼフル出場の27試合でプレー。打率.387、3本塁打を記録した。

「数字は全く気にしませんでした」

 という宗だが、今までと違ったタイミングの取り方など日本では試せなかった取り組みやタイプの違う多くの投手と対戦できたことは収穫だった。

 オーストラリアで学ぶことはとくになかったという宗だが、多くの選手が兼業で、ときには仕事で試合や練習に来れないというオーストラリアのトップリーグの環境に「日本って贅沢なんだな」と感じたという。捨てようとしていたバッティンググローブをねだる現地の選手を目の当たりにして、支給された野球道具の多くを置いてきた。そのような環境に改めて身を置くことで得たものは決して小さくはないだろう。

「結局は打つ人がレギュラーになるんです」

 ただオーストラリアに行った最大の理由は違ったところにあった。

「サードに挑戦したかった」

 宗はウィンターリーグへの参加の理由をこう語った。宗といえば、そのスピードを生かした広い守備範囲を備えた外野手の印象が強いが、横浜隼人高校からドラフト2位でオリックスに入団した当初は、次代を担うショートストップとして期待されていた。しかし、ショートの話になると、「そこはもういいです。自分でも下手くそってわかりましたので無理です」と笑う。プロ入り後、壁に当たった際に福良前監督から打診されたのが外野へのコンバートだった。宗自身も定位置確保には外野の方がいいと感じたのだろう。

「サードに挑戦したかった」 ©阿佐智

 しかし、この冬再び、内野に挑戦した。オーストラリアでは、昨秋のプレミア12の際のケガでシーズンを棒に振ったかつての同僚、ダリル・ジョージ(元オリックス)の穴を埋めるべく、出場全試合でホットコーナーを守ったのだ。その挑戦はこの春のキャンプでも続いた。現在、オリックスのレギュラーは、両翼に吉田尚、新外国人のメジャーリーガー、ジョーンズがつくことは半ば決まっている。二遊間も福田、安達でほぼ決まりだろう。ファースト、指名打者はモヤ、T-岡田、ラオウこと杉本の争い。となれば、センターとサードが狙い目となる。この両ポジションをともに守れることは、現在のチーム事情を考えれば常時出場の大きな武器になると宗は考えたのだ。

 ただ、そのためにはまずは打つ方で結果を残させばならないことは宗自身も百も承知だ。

「結局は打つ人がレギュラーになるんです」 と言う宗は、3打数ノーヒットに終わった試合後、室内練習場で特打ちを行った。ネットに囲まれた狭いスペースで、彼の鋭い打球はマシンの左上方に計ったように次々と突き刺さっていった。