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天海祐希「トップナイフ」“頭蓋骨の粉が舞う”手術シーンは実臨床としても一見の価値アリ

天海祐希「トップナイフ」“頭蓋骨の粉が舞う”手術シーンは実臨床としても一見の価値アリ

医師が見た医療ドラマのウソ・ホント【前編】

source : 週刊文春デジタル

genre : エンタメ, 医療, テレビ・ラジオ, 芸能, 社会

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僧侶の医者は実在する

 伊藤英明が救命救急医・松本照円を演じる「病室で念仏を唱えないでください」は、救命救急センターを舞台に、命を救う医者で死を看取る僧侶でもある“僧医”が仲間とともに奮闘する様子を明るくコミカルに描く異色作だ。袈裟にスニーカー姿の松本が病院内を駆け回る姿は、これまでの医療ドラマでは描かれなかった設定だろう。人気者の病棟クラーク・小山内みゆき役として出演していた女優の唐田えりか(22)が東出昌大との不倫報道の後、1話限りで出演を自粛したことも話題となった。

「病室で念仏を唱えないでください」(TBS系)より

「僧侶が医者なんて、完全にフィクションかと思う視聴者もいると思いますが、僧医は実在します。病院などの施設にいる聖職者をチャプレンと言い、彼らの仕事は患者のベッドサイドで話を聞き、祈りを捧げたりすること。仏教系やキリスト教系の病院にはチャプレン室が設置されていることが多いです。しかしごくたまに、松本照円のように普通の病院にも聖職者がいることがあります。ただ、医師と聖職者を同時に兼業している人はめったにいません。

 知り合いに、神社生まれで神主学校と医学部両方を卒業した医師がいるのですが、今は普通の病院で外科医として働いています。たまに実家に帰ったときに神主としての仕事をすると言っていましたが、医者の仕事に松本照円のように袈裟を着て救命にあたるのはドラマならではの設定でしょう」(病院関係者)

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命の危機が迫る患者に「CT行くよ!」はない

「コード・ブルー」(フジテレビ系)や「救命病棟24時」(フジテレビ系)など、救命救急の現場を舞台にした医療ドラマはこれまでも数々作られてきたが、現役医師・医学博士であり救急科専門医の宮田和明医師は、「全体的には非常に良く、救命救急の医療現場の臨場感を反映できています」と本作を評価しつつも、「医者の日常のルーティンワークもドラマの中に織り交ぜてもらえれば」と語る。

「救命救急に携わる医師の多くの場面がセンター内での処置や手術のシーン、患者さんやスタッフとの会話のシーン、医局での食事や同僚との会話のシーンに凝縮されていました。しかしながら、現場の救急医の仕事の約半分は診療録、つまり、カルテを丁寧に記載することにあります。ドラマならではなのでしょうが、ドクターがカルテを記載しながら同僚やスタッフと話をするシーンがあれば、リアリティが増します」(同前)

「病室で念仏を唱えないでください」(TBS系)より

 また、宮田医師は第6話で、実際の医療現場とは異なる大きな判断の違いがあると指摘する。物語中盤で、倒壊事故により意識不明になっていた三宅(中谷美紀)の元恋人・和田洋平が呼びかけに応答できないほどもがき苦しむシーンだ。命の危機が迫る元恋人を前に、三宅はすぐに「CT行くよ!」と叫ぶ。

「名前を呼んでも応答できないほど苦しんでいる患者さんの処置として即、CT検査はあり得ません。なぜなら、バイタルが安定していない患者さんをCT室まで運ぶこと自体がリスクになるからです。CT室で容態が急変したら助けられる命も助けられなくなる。まさにCTが『死のトンネル』になってしまうわけです。救急医の基本ですが、救命救急の現場から15分以上離れても問題ない、つまりそれほど血行動態が安定していると判断した場合でない限り、CT室まで搬送することはご法度。

 本患者さんの場合、救急医ならまず、『CT行くよ!』と叫ぶのではなく、即、『ポータブル心電図・心エコー! PE(肺塞栓)疑い!』と大声で叫び、スタッフを集め、その場で診断後、ただちに治療(血栓溶解薬の投与等)を開始します」(同前)