「両親に中国に帰れって言われてるんです。日本は危ないからって」

 在日中国人のLさん(20代、女性)は言った。まあ一人娘を海外に送り出した親は心配に思うものですよ、大丈夫だと親御さんにお伝えすれば……と慰めようとしたら、彼女はこう言葉を続けた。

「確かに私も日本は大丈夫なのかな、怖いなって思うんです」

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 新型コロナウイルス肺炎が猛威を振るうなか、日本でも街ゆく人のマスク着用率は日に日に上がっているように見える。ただ、それでもマスクをつけていない人も少なくない。時差通勤だ、リモートワークだと話には聞くものの、現実はというと満員電車での通勤の日々。お店には量り売りの惣菜が売られているし、その前でおしゃべりをしている人もいる。中国ではほぼすべての会社や学校が閉鎖されたほどの厳戒態勢で、友だちからも「街には人影はない」なんて連絡が来るのに、日本は緊張感がなさすぎるんじゃないでしょうか……。

3月1日に開催された東京マラソン。応援自粛要請が出ているなか、マスクを着用する観戦者たち ©共同通信社

 在日中国人はインターネットで中国のニュースも見ているし、メッセージアプリを通じて家族や友人からも中国の現状を伝えられる。そこで見聞きした状況と比べると、日本の脳天気な状況が信じられなく思うのだという。Lさんだけではなく、複数の在日中国人が同じような話をしていた。

深圳では店内飲食禁止!

 彼らの不安はわからないでもない。筆者も先月末に広東省深圳市を訪問したが、今まで見たこともないような非日常の空間が広がっていた。タクシーで現金を支払うと、お札をアルコール消毒してから受け取る。飲食店は半分以上閉鎖されており、開いている店も店内での飲食は禁止。テイクアウトするか出前するか、しかない。場所によっては不要不急の移動を禁止するため、2日に1回しか外出できないという決まりも出来たという。

深圳市のマクドナルド。入店は禁止で入口のQRコードから注文しなければならない

 携帯には日に1~2回は当局からのショートメールが届く。出歩かないようにしよう、行列を作るな、手洗いのやり方といった注意喚起だ。さらにショッピングモールやホテル、地下鉄入口などいたるところで体温検査が実施されている。銃のような形にも見える非接触型体温計を額に向けられるのはあまりいい気持ちはしないが、それ以上に怖いのはもし発熱していた時のことだ。37.3度以上の熱が出るとそれらの施設への立ち入りは許されない。

深圳市の新型肺炎指定病院。入口では防護服を着た看護師が体温を測定している