「熱が出たら当局に連れ去られちまうぞ」
「熱がでたら一巻の終わりだよ。すぐ当局に連れ去られちまうぞ。絶対に風邪を引くなよ」
チャーターした車の運転手にはこう脅された。発熱したら問答無用で連れ去られるという事態が本当にあったとは聞かないが、街の厳戒態勢を見るとひょっとしたらと思ってしまう。少なくとも、ナマハゲが来るぞ的な脅し文句としては大人にも通用するレベルだ。薬局では解熱剤を購入するのに実名登録が必要になったとも聞いた。薬で熱をごまかして移動すれば処罰されるのだという。こうした状況の中国からすると、日本はあまりにも無防備に感じられるというわけだ。
日本の対策はまるで「仏」
報道も日本に対する不安感につながっている。中国本土や台湾、香港のメディアでは「日本の“仏系”防疫」という言葉をよく見かける。「仏系」とは日本由来のネットスラングだ。2014年に雑誌『non・no』が究極の草食系男子として「仏男子」なるワードを使ったのが、中国に輸入された。いつも大人しくがつがつしない性格を指すのだが、日本の肺炎対策はあまりにもおっとりしている、というか、まったくの無策ではないかとして「仏」という言葉が批判的に使われているわけだ。
経済的ダメージは覚悟の上、人の動きを極限まで少なくして速戦即決の対策に出た中国。経済活動を維持しつつも、高リスクの問題に局所的に対処していく日本。両国の対応は対照的だ。中国が正しくて日本がまちがっているのか、あるいはその逆なのか。公衆衛生の専門家ではない私が評価できる話ではないが、「中国イケてる」と痛感した部分はある。それはデジタル技術の活用だ。
中国国家衛生健康委員会が3月4日に発表した新型肺炎統計によると、中国ではこれまで累計66万6397人の濃厚接触者を追跡してきた。これほど膨大な数の人間を追跡できたのは、デジタルの力を抜きには語れない。