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精神医学の核心を突いた 「心の傷を癒すということ」

 “心のケア”のパイオニアとして1995年の神戸の人々を支えた精神科医・安克昌の半生を柄本佑主演でドラマ化した「心の傷を癒すということ」(NHK)は、全4話という短さながら、SNSでは放送のたびに「号泣した」「傑作」などの感想が飛び交った。

専門医の評価も高い柄本佑主演のドラマ「心の傷を癒すということ」(NHK)

 なかでも涙を誘ったのは第2話だ。避難所で阪神タイガースの帽子を被った少年が、段ボールにペットボトルを載せて「震度5、6、7」と揺らす“地震ごっこ”をしている。それを見た大人たちは涙ながらに「どんな神経してんのや」と怒鳴るが、安先生は「こうやって地震ごっこをすることで、何とか気持ちの整理をしようとしてるんだと思います」と優しく語る。

 このシーンを評価するのは精神科医の名越康文医師だ。

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精神医学の核心を射抜いている台詞

「あの場面は『不在と再会』というフロイトの分析として解釈できます。赤子は母親の姿が見えなくて不安になると泣きますが、姿が見えると安心する。自分のコントロール下にない存在に対して不安を感じ、その存在を疑似的にコントロール下に置くことで不安に対抗するという解釈なのですが、少年の“地震ごっこ”も同様です。まさにあの場面は、強大な力で人々を苦しめた自然災害を自分がコントロールする神の立場になって不安を乗り越えようとする試みとして描かれている。

 しかし劇中ではそういった説明を全て省いています。安先生の台詞では『気持ちの整理をしようとしてるんだと思います』という一言だけで彼らの行動の理由を見事に表現していた。そういった意味で、専門用語を使わず抽象的だけれど、精神医学の核心を射抜いている台詞だと思います」

“地震ごっこ”をする少年(「心の傷を癒すということ」NHKより) 

医療業界で密かに話題の「アライブ がん専門医のカルテ」

 日本人の死因1位のがん治療に焦点を当てた「アライブ がん専門医のカルテ」(フジテレビ系)は、松下奈緒演じる抗がん剤治療のスペシャリスト・腫瘍内科医の恩田心が、消化器外科医の梶山薫(木村佳乃)とバディを組んで医者を救うヒューマンドラマだ。視聴率は平均6~7%だが、医療業界内では密かに話題の作品だという。

松下奈緒(右)と木村佳乃(左)がバディを組む(「アライブ がん専門医のカルテ」フジテレビ系より)

 消化器外科専門医の山本健人医師は「現在のがん治療のリアルを丁寧に描いている」と分析する。

「例えば第1話で『CVポート』が胸に埋め込まれた患者さんが登場しました。抗がん剤の点滴を行う際の薬液漏れを防いだり、自宅での点滴管理を容易にするための道具なのですが、ドラマで描かれたことはほぼありませんでした」