「3つの“あ”=焦らない、慌てない、諦めない」がリアル
「これまでの医療ドラマでがんは、辛い抗がん剤治療に耐えるシーンや、がん=余命宣告と捉えられる描き方を多くされてきました。ですが現在は医療が進歩して入院するケースも少なくなってきているんです。午前中に抗がん剤の点滴を打って、午後から仕事に行く患者さんも多くいます。ドラマでも第2話で『会社にバレたくない』という乳がん患者の佐倉莉子(小川紗良)に恩田先生が『佐倉さんの生活に合わせて仕事と治療が両立できるようにサポートします』と言っていましたよね。『アライブ』ではそういった細かな技術の進歩が丁寧に描かれています」(同前)
国立がん研究センター東病院呼吸器外科長の坪井正博医師も細部のクオリティには驚いたという。
「恩田先生が患者に『抗がん剤治療の3つの“あ”=焦らない、慌てない、諦めない』について説明するシーンがありましたよね。あれは実際の治療でもよく言うんですよ。ドラマの1話目でがん治療の基本姿勢に触れていたので、丁寧に取材していると感じました。また、以前に私が関わった医療ドラマでは抗がん剤の名前を本物に似せて架空の薬剤名を出していましたが、ここでは抗がん剤の一般名(実在の薬剤)を台詞に盛り込んでいてリアリティへのこだわりを感じました」
誤解を与えてしまいかねない自宅訪問シーン
一方で視聴者に誤解を与えてしまいかねないシーンもあるという。第3話で、自宅療養をする患者・木内陽子(朝加真由美)を担当する在宅医から「(家族から)相談があるらしい」との連絡を受け、恩田が自宅を訪ねるシーンだ。
「がん治療の多職種カンファレンスが行われるような大きな病院では、一般に医者が患者の家に直接行くことは個人的つながりでもなければ実際にはありえません。他の患者さんも診なければいけませんから。百歩譲って患者さんのご自宅に伺うとすると、がん相談員や看護師さんと一緒に行くように思います。物語中では、外来治療室(通院治療センター)で恩田先生自身が患者に点滴を打ったり抗がん剤治療の経過を見に来るといったことまでやっていました。この状況は現実としてありますが、看護師さんや薬剤師さんの姿が近くになかったことに違和感を感じました。
特に、副作用対策は患者さん同士のコミュニケーションもありますが、看護師さん、薬剤師さんがかなりサポートしています。特に恩田先生のいる腫瘍内科は入院、外来ともに患者が多いですから、ドラマでは主人公の医者が1人の患者さんかける時間、労力が実際の現場より多く、何でもかんでもやりすぎてかえって余裕がない、という印象はありました」(坪井医師)
前出の山本医師も「ドラマに影響されると患者にとって不利益となる場合がある」と言う。
「患者さんはドラマを見て『困ったことは全部担当医に聞けばいい』と思ってしまう方が多いのですが、看護師には看護師の、薬剤師には薬剤師の専門領域があります。患者さんが医療を最大限活用するためには、医者だけでなく、いろんな職種のスタッフを上手に利用することが大切なんです」(同前)
最終回まであと少し。リアルとドラマの違いを楽しむのも一興だろう。
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