3月14日、山手線の駅「高輪ゲートウェイ」がついに開業する。2018年12月に発表されて以来、新駅の名称は賛否両論を呼び、駅のキラキラネーム化に違和感を覚える人も多いのではないだろうか。地図研究家で著書に『地名崩壊』(角川新書)がある今尾恵介氏が、キラキラ駅名の系譜について考察する。

2019年11月、報道関係者に公開された新駅「高輪ゲートウェイ」駅のホーム ©時事通信社

山手線の駅名で初のカタカナ混じり

「高輪ゲートウェイ」という駅が2020(令和2)年3月14日に開業する。山手線の駅(注1)としては、これまで最も新しかった西日暮里駅が1971(昭和46)年の開業なので、ほぼ半世紀ぶりの新駅の名前には大きな注目が集まった。ゲートウェイは英語のGateway(出入口の意)に由来するが、巨大な車両基地の跡地に展開する「グローバルゲートウェイ品川」という再開発プロジェクトは「新しい東京の入口」であり、また「東京から世界へ羽ばたく玄関口」であろうとする意気込みの表明ということらしい。東海道で江戸入りするのがここの高輪大木戸であったことも重ねたようだ。もちろん山手線の駅名としては初のカタカナ混じりである。

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(注1)山手線はここでは「系統名」を指す。線路としては品川~新宿~田端のみで、他は東海道線と東北線の各一部にまたがって運転されている。

鉄道コムの総合公式アカウントより

大先輩格のたまプラーザ駅

 さて東京の周辺にカタカナ駅名がないか見渡してみると、田園都市線の「たまプラーザ」という駅が大先輩格だ。民間では最大級のニュータウン「東急多摩田園都市」の中核となる駅として半世紀以上も前の1966(昭和41)年に新設されたもので、このスペイン語で広場を意味する語を入れた駅名は、当時の東急電鉄の社長がじきじきに命名したというから、力の入り方が想像できる。

 駅の所在地およびその北側一帯には「美しが丘」という町名がついているが、かつては元石川町の一部であった。1939(昭和14)年に横浜市に編入される以前は都筑(つづき)郡山内村大字石川。中華街に近い石川町(中区)が以前からあったため、起源としてはそれより古いという意味で「元石川町」と改称して区別したものである。なぜ「元石川駅」ではいけなかったのか考えてみると、このニュータウンの売り出しにあたって、昔ながらの農村とはまったく別世界であることをアピールし、差別化する必要があったためだろう。

※写真はイメージです ©iStock.com

 今では田園都市線の沿線といえば「新・山の手」などとも呼ばれる高級イメージのエリアとなっており、その他の駅名も、あざみ野、藤が丘、青葉台など本来の歴史的地名ではないものがいくつも並んでいる。駅周辺の町名も、たとえば青葉台駅の周辺には、もえぎ野、たちばな台、しらとり台、つつじが丘といった平仮名地名も目立つ。