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「世の中をよくしたいわけじゃなかった」気鋭のAI研究者が語る“ドラえもん開発”の夢

『ドラえもんを本気でつくる』より #1

2020/03/21
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「ドラえもん」開発を本気で目指すことでAI(人工知能)技術が発展し、世の中の課題を解決していくことにつながるかもしれない――。

 一般的にAIと聞くと「人間のような自我を持つ機械」というイメージがあるが、実は明確に定義されているわけではない。AIの能力が人間を超える「シンギュラリティ(技術的特異点)」を迎えることで「人間の生活がすべてAIに監視されるのでは?」というSFさながらの懸念をいだく声もある。しかし実際には、より専門的な役割を担うだけの「特化型AI」の開発が大勢を占めているともいわれている。AI技術が一般化し、社会を支える技術的基盤になりつつある今、AIについての知識を学ぶことが必要だ。

 慶應義塾大学大学院博士課程在籍中の若手研究者にして孫正義育英財団1期生でもある大澤正彦氏の著書『ドラえもんを本気でつくる』(PHP新書)より一部を抜粋し、「ドラえもん開発」にかける著者の熱意の源を探る。

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ドラえもんとは、どんな存在か?

©iStock.com

 みなさんは、ドラえもんに対して、どんなイメージをもっているでしょうか。

「便利な道具をポケットから出してくれる」「未来からきたロボット」「のび太の友達」など、さまざまなイメージをもっていると思います。

 私がドラえもんのどのような側面をもっともつくりたいと思っていたか、をふりかえると、「のび太を幸せにする、心をもった存在」という部分ではないかと考えています のび太は、勉強ができず、失敗ばかりで、ジャイアンやスネ夫からいつもいじめられています。そんなのび太のそばにいて、のび太の気持ちをわかって助けてくれる。そんな存在をこの手で生み出したい、と思っていたのです。

 漫画「ドラえもん」は、1969年12月に発売された、1970年1月号の学年誌(『よいこ』『幼稚園』『小学一年生』『小学二年生』『小学三年生』『小学四年生』)から始まりました。2019年から2020年にかけて、ちょうどドラえもん誕生50周年にあたります。

 これを記念して、さまざまな取り組みやイベントが開催されています。2019年11月末には、23年ぶりの新刊である『ドラえもん 0巻』(小学館)が刊行されました。

 これを見ると、1969年12月号に「正月号から新れんさい」という予告が出されています。予告には、机の引き出しから何かが飛び出してくる絵が描かれていますが、ドラえもんの姿は描かれていません。

ぐうたらな男の子を助けるロボット

『ドラえもんを本気でつくる』 ©PHP新書

 また、収録されている「ドラえもん誕生」物語には、作者の藤子・F・不二雄先生が新連載の締め切り前日なのに、主人公のイメージさえ思い浮かばず、焦っている状況が出てきます。それなのに眠ってしまい、締め切り当日の朝を迎えても何もアイデアが出てこなくて大焦りします。

 そして、苦しまぎれに思いついたのが、ドラえもんでした。「頭の悪いぐうたらな男(藤子・F・不二雄先生ご自身のこと)」を助けてくれるロボットがいたらいいなと思い、それをヒントに、「頭の悪いぐうたらな男の子」を助けるためにやってきたロボットとして、ドラえもんを思いついたのです。

 この誕生秘話を見ても、ドラえもんはぐうたらなのび太を助けて、のび太を幸せにするロボットという側面があるのかな、と感じます。