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「ドラえもん」づくりの根幹は、不完全さを支え合うことだった

『ドラえもんを本気でつくる』より #2

2020/03/21
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 現代に生きる人々ひとりひとりの悩みをボトムアップで解決するために、「ドラえもん」を開発しようとする大澤正彦氏。目標実現のために大澤氏が作った「全脳アーキテクチャ若手の会」は、老若男女・専門内外を問わずフラットな議論が活発に交わされる、情報交換の場だ。

「全脳アーキテクチャ若手の会」は半年に一度、ニコニコ生放送を使った講演会を行っている。登壇者は自分の専門分野以外の領域について、半年かけて「専門家」として発表できるレベルまで知見を深める。その結果、専門分野の掛け合わせが唯一無二で爆発的に価値の高い専門家を生むのだという。領域横断的なチームづくりこそ、これからの社会に求められるものかもしれない。

 慶應義塾大学大学院博士課程在籍中の若手研究者にして孫正義育英財団1期生でもある大澤正彦氏の著書『ドラえもんを本気でつくる』(PHP新書)より引用する。

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それぞれの専門性を持ち寄ってドラえもんがつくられる

©iStock.com

 私のドラえもんづくりのアプローチは、AIと認知科学と神経科学の研究を合わせたような、総合的な「知能」づくりです。もちろん、私1人でできることではありません。

 そこで、さまざまな分野の人がフラットに議論し、情報共有できる場をつくったわけです。それが「全脳アーキテクチャ若手の会」です。若手研究者だけでなく、老若男女が参加し、ビジネスパーソン、起業家、ライター、小説家、漫画家、医者、ダンサーなどもいます。

 フェイスブックに登録している2,500人のうち、これまでイベントには1,900人ほどが参加してくれました。運営に携わってくれているメンバーは、そのうち200人ほどです。

 会の目的は定めていません。名目上の代表はいますが、リーダーという役割ではありません。代表が「会場はこちらです」と、会場の外で案内役という名の雑用に徹している一方で、はじめて参加した人が司会や講演者として前に立つということもよくあります。

 会のなかでは、たとえ60代、70代のシニア世代の方に対しても、大学生や、場合によっては高校生も「それは違うと思います」と言って議論することが日常茶飯事です。でも、議論が終われば、みんな仲よくご飯を食べにいったりしています。

 私としては、“ウニ”のような組織ができればいいと思っています。みんながバラバラの方向を向いているけれども、なかにはすごくおいしいものが詰まっている。無理に方向性をあわせたりせず、バラバラのままでいい。でも、社会を変えるエネルギーが蓄えられていく。そんな組織です。

 誰が上とか下とかではなく、「この人を支えたい」という人がいれば、全力で支える。お互いに完璧ではないのですから、支え合うかたちがいいと思っています。

誰もが不完全だから助け合うのがドラえもんの世界観

 ドラえもんに出てくる登場人物は、みんな不完全です。のび太も、ジャイアンも、スネ夫も、しずちゃんも不完全。パパもママも不完全です。その不完全性が共感を得たりしながら、作品のおもしろみを生んでいます。

 不完全だからこそ、人と人が助け合ったり、人とロボットが助け合ったりする。それが、感動につながっています。

 のび太のもっている劣等感は、誰もがもっているものではないかと思います。その劣等感をどうしていいかわからない。うまく言えないけれど、誰かに助けてほしい。そんなのび太を助けてくれるのが、ドラえもんです。ジャイアンも自分のことをうまく表現できなくて、暴力などに走ってしまいます。