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「ドラえもん」づくりの根幹は、不完全さを支え合うことだった

『ドラえもんを本気でつくる』より #2

2020/03/21
note

1人ひとりの不完全さを前向きに思わせてくれるドラえもんという存在

 私は、児童ボランティアの活動をずっとやってきましたが、子供たちを見ていて、誰もが「のび太性」や「ジャイアン性」をもっているのではないかと感じました。

 のび太とジャイアンを、ADHD(注意欠如・多動症)と見ている人もいます。のび太が注意欠如、ジャイアンが多動だそうです。ただ、それは欠点ではなく、その特徴を前向きに思わせてくれるのが、ドラえもんです。助け合いながら、不完全な面をみんなで補い合っています。

©iStock.com

 のび太を助けるドラえもんも、不完全な子です。性能が悪いロボットという設定ですし、ドラミちゃんにはぼろ負けです。ドラミちゃんのほうが性能が高く、賢くて、強い。

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 でも、ドラえもんは性能はポンコツでも、心に関しては、ほんとうにすばらしいものをもっていて、不完全なのび太と不完全なドラえもんが手をとりあいながら成長していきます。そこがドラえもんのすばらしい点です。

 私は、個人的には、ひみつ道具が出てこないドラえもんの話が大好きです。「おばあちゃんの思い出」「のび太の結婚前夜」「帰ってきたドラえもん」など、いろいろありますが、ドラえもんとのび太など、登場人物たちの温かい人間関係が描かれている話は、ほんとうに前向きな気持ちになれます。ドラえもんにグッときます。そういう世界観のドラえもんをつくるのですから、ドラえもんづくりにおいても仲間と助け合うということが、絶対的に必要だと思っています。そうでないと、ほんとうのドラえもんにはなりません。

へたなプログラムでも自由に書いていいプラットフォーム

 いま開発しているのは、誰でも自由にプログラムを書くと、それがロボットの一部に組み込まれるソフトウエア・プラットフォームです。どんなにへたなプログラムでもバグを起こさずに、上手なプログラムのなかに組み込まれて、ちょっと味を出すという設計です。

 このソフトウエア・プラットフォームができれば、ものづくりを出発点にもどせると思っています。

 子供のころに、段ボールやトイレットペーパーの芯などを自由に使って、自分なりにペタペタと貼りつけて作品をつくっていくことから、ものづくりを始めた人が多いのではないかと思います。少なくとも、私はそうでした。ものづくりが好きになって、どんどん深みにハマっていって、ものづくりの道に進みました。

 ところが、大人になると、つくったものに対して、

「これ、何の役に立つんですか?」

「どうしてこういう設計なんですか?」

 と聞かれるようになりました。

 へたくそなものや、役に立たないものは、バカにされます。そうなると、楽しい部分を消し去ったようなものづくりになりがちです。新しい価値を追求するためにしているものづくりさえも、既存の価値軸に当てはまっているかで測られることがよくあります。