「ビジネスにアートの発想を取り入れよう」との風潮が目立つ今日このごろ。一方で、そもそも「アートがビジネスの主役」という日々を生きる人もいる。山口桂さんは、世界2大オークションハウスのひとつ、クリスティーズの日本法人代表。日本古美術の競売史上で世界最高額を記録した「伝運慶作 木造大日如来坐像」や、米国から日本に「里帰り」した伊藤若冲の名作群などを橋渡ししてきたスペシャリストだ。初の著書『美意識の値段』(集英社新書)で、その豊富な経験をスリリングかつユーモラスに語っている山口さんに、美意識の商いとでもいうべき現場の舞台裏を聞いた。
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アートの値段から考える「価値観の商い」
――まず素朴な質問です。そもそもアートの値段はどのように決まるのでしょう?
山口 オークション会社が作品の価値を「査定」する主な基準は、以下4点だと私は考えます。
1.相場:たとえば「18世紀の◯◯様式で、大きさはこれくらい、文様はこんな感じの壷」の典型的なモノならいくら、という共通認識。
2.希少性:作品が珍しいものだった場合に、上記1の相場を元に付加価値を認める。
3.状態:保存状態がよくない場合など、やはり上記1の相場を元に調整していく。
4.来歴:作品が辿ってきた「道」。歴代の目利きや有名美術館に所蔵されてきた場合などは評価も上がる。
ただ、戦後美術などは歴史がまだ短いぶん、評価が流動的な部分もあり、急な高騰などもしばしば起き得ます。ピカソのように誰もが知る大作家がいる一方で、最近では覆面作家・バンクシーのように街中でゲリラ的に活動してきたアーティストの作品が、億単位の値段で競売されているのも象徴的ですね。私のポリシーは「全ての美術品はできた当時は現代美術」で、その現代性が年月を経ても失われないものが、歴史に残るのだと思っています。
――オークションではそうした専門的な基準に加え、最後は「欲しい人が値段を決める」?
山口 そうした一面はありますね。ある作品を欲する人が2人以上いれば、査定に基づく「落札予想価格」に対し、何十倍もの額で落札されることもあり得ます。ただし、評価額1億円の作品が10億で落札されたら、以降の評価額もすぐ10億になるわけではありません。作品自体の評価額はもっと長いスパンで少しずつ、様々な要素によって変化していくものです。