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2020/03/21

ものによってはひとつの国(領土)と等しい価値

――『美意識の値段』では、日本古美術の競売史上最高額(1437万7千ドル:当時約14億3千万円)を記録した「伝運慶作 木造大日如来坐像」をめぐる人々のドラマや、山口さんが売買仲介を通じて優れた文化を次代に残し、世界に伝えたいという想いも印象的でした。

山口 遡れば、もともとアートは王侯貴族の間で、あるいは宗教の場で存在してきたものが、やがてより広い人々の間で鑑賞や売買が行われるようになりました。日本では少なくとも桃山時代に、茶道具などが武将や茶道関係の商人の間で売り買いされていました。人々が競って良い品を求め、ものによってはひとつの国(領土)と等しい価値を持つに至った。

 そこには美しいものへの希求や、それを持つことで他者より秀でていると示すこと、またはアートを介した社交の楽しみなど、様々な要素もあると思います。アートオークションの現場でも、背景にそうした様々な強い想いがあるためか、ドラマが起きやすいようにも思います。

 

作品の「再評価」や「里帰り」も起こるドラマ性

――ゴッホのように、経済的成功と縁遠かったアーティストの作品が、没後に数十億〜100億円を超える額で取引されるようなケースもあります。 

山口 「再評価」は美術の世界でしばしば起こります。現役作家の草間彌生さんなども、此処10年国際的な再評価がなされ、人気も作品価格も上がりました。再評価はそれに値する表現のクオリティが大前提ですが、きっかけは様々で複合的です。美術館や研究者が「忘れられていたアーティスト」を発掘することもあれば、アートマーケットが「売れるスター」を過去の歴史に求めることもあります。また社会の潮流とも関わりがあり、たとえばジェンダー格差が反省されてきた結果、女性作家の再評価が進むこともあるかもしれません。