宝石には、よく「呪いのダイヤ」とかいわれるモノがある。それは身に付けるモノであるがゆえに、持ち主の情念のようなものが作品にまとわりつき、何か事故等が起きた後、それが「呪い」となって伝説化するのだろう。

 それは美術品にもたまにいわれることである。こと古い時代の刀や甲冑、着物等には一寸注意が必要な物がある、とよく聞く。これからお話するのは、私の同僚に実際に起こった出来事である。

※本文は『美意識の値段』(集英社新書・山口桂著)内の「祟りじゃ! な仏像」を引用・編集したものです。

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2メートルにならんとする非常に大きな仏像

 或る年の日本出張中に、私は2メートルにならんとする非常に大きな或る仏像の出品契約を取った。その仏像は鎌倉時代の作と思われ、寄木造(各ブロックを造り、後で組み立てる)の作品だった。

 そしてその作品はニューヨークに運ばれ、オークション・カタログの為の写真撮影に入った。仏像はフォト・ステュディオに運ばれ、フォトグラファーと打合せを始めたのだが、高額な事と、怖い程の迫力或る大きな作品で有る事から、通常のショットと共に特別ショットを撮る事に決めた。フォトグラファーXにその事を告げると、当時超多忙だった彼は多忙を理由に当初反対したものの、結局折れ、嫌々ライトのセッティングを始めたのだった。仏様の正面に廻った時にイライラして居たフォトグラファーが、汚い言葉で「こんな●●、やってられっか!」と叫んでいるのを聞きながら、私はランチへと出掛けた。

 そしてランチから帰り、ほんのりと暗くなった誰も居ないステュディオで私が見たのは、すっくと立つ仏様の前の床に広がる「血溜まり」で有った…。