文春オンライン

美術品をめぐる“呪い”の都市伝説――とある仏像を罵った私の同僚に実際に起こった出来事

『美意識の値段』(集英社新書)

2020/03/21
note

「何処に行ってたんだ!?大変だったんだぞ!」

 目の前の超シュールな情景が信じられず、呆然して立っていると、写真部の部長Rがやって来て、「カツラ、何処に行ってたんだ!?大変だったんだぞ!」と云うので、「何があったんですか?」と聞くと、「Xが怪我をして、救急車で病院に運ばれたんだ!」と云う。私の居ない間に起ったこの事件はこう云う事だ…私が出掛けた後、Xはセッティングを続けていたが、上からのライトを当てるため、シャフトを伸ばした侭ライトを移動させて居たらしい。そして或る所でそのシャフトが仏像の「髻(もとどり:髪を頭の上で束ねた部分)」に当たり、「寄木造」ゆえ単に嵌めこんであった「髻」が外れ、何とXの頭を直撃したというのだ。

©iStock.com

仏像には欠けも出来ず、血痕も付いて居なかった……

 その結果、Xの額は割れ大流血と為り、十針以上縫う大怪我と為ったが、その「髻」の方は、Xの頭を直撃後に床へ落ちたにもかかわらず、一辺の欠けも出来ず、血痕も付いて居なかったので有る…。幸いにもXは数日で仕事に復帰したが、それ以降この事故は社内中の噂となり、その仏様の前を通る全てのアート・ハンドラー達は、一礼をして通る様に為った。

 そしてこの仏像はオークションに掛かったが売れず、「これも祟りか?」等と思ったりもしたが、アフター・セール(オークションで作品が不落札だった時に、その直後にもう少し安い価格なら買いたい、とオファーする事)の申し込みが有った後ディールが成立し、今は欧州某所に在る。

ADVERTISEMENT

 私は、骨董品には「持つ人」の思いが残ると云う可能性を否定はしないけれど、清い心で持てば何にも怖い事は無いと断言しよう。そうで無ければこの仕事、命が幾つあっても足りません!

美意識の値段 (集英社新書)

山口 桂

集英社

2020年1月17日 発売

美術品をめぐる“呪い”の都市伝説――とある仏像を罵った私の同僚に実際に起こった出来事

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー