このままでは日本に帰れなくなる
「これで安心して孫を抱っこしたり送り迎えができる」と、夫婦で検疫所を出たが、その先も一筋縄では行かなかった。平沢さんが振り返る。
「親族たちが心配して待ってくれている妻の故郷の済州島に立ち寄ろうと思ったのですが、新型コロナウィルスの騒動が始まって以来の減便で済州島と関西国際空港のフライトが欠航でした。加えて、隔離されている間に韓国の感染者が急に増えた影響で、大邱や慶尚北道慶山市などに日本の外務省から渡航中止勧告の地域が拡がっていた。このまま韓国にいると日本に帰れなくなると不安になり、そのまま仁川から大阪に帰ることに決めたのです」
実際、帰国した翌5日の夜、安倍晋三首相は中国や韓国からの入国を3月末まで大幅に制限する方針を明らかにした。両国からの入国者に対して、実際に感染しているかどうかを問わず、宿泊施設や医療施設での「2週間の待機」を要請したのである。
「ニュースを聞いた時は唐突に感じました。数日寄り道をしていたら、私たちはまた待機になるところだった」(平沢さん)
「通常通りの生活を送ってください」と言われたが……
帰宅した4日夜には厚生労働省の検疫の担当者から電話があり、「下船後にほかの乗客に求められた健康観察も韓国で済ませているので、もう通常通りの生活を送ってください」と言われほっとしたのも束の間、日を改めて向かった会員制のフィットネスクラブで「14日間は利用できません」と入館を断られたという。
平沢さんが閉口した様子で話す。
「千葉のフィットネスクラブで集団感染が出たこともあってか、業界団体がガイドラインを出しているとのことでした。実際クラブ関係者の間では、クルーズ船の乗客でしばらく顔を見せない私について“入院したのではないか”とか噂が立っていたそうです」
韓国の保健福祉部長官名の証明書も逆効果になった。
「紙を持って行ってフロントの人に見せたのですが、今度は韓国からの帰国者はやはり帰国から14日間は利用できない、と言われてしまった。こちらはお金を払っているし、検疫上はもう政府からお墨付きをもろてるのに……こんなんが続いたら、一生言われそうやわ」(平沢さん)