〈学校の臨時休校やイベント中止が続くことに、「そこまでする必要があるのか?」と疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。「一部に重症化する人がいるにしても、大部分の人は感染しても、無症状か、通常のインフルエンザ程度の軽症で済むというのに」と。しかし、「若い人を中心に無症状か軽症で済む」と同時に「強い感染力を持つ」という特徴こそ、今回の新型ウイルスの一番怖ろしい点なのです。
「自分は若いから」「持病はないから」と感じている人が多いでしょうが、個人単位だけで見ても、このウイルスの本質は見えてきません。一見“軽い病気”なのに、同時に大勢の人数が感染することで、社会の大混乱、とくに“医療崩壊”をもたらすかもしれない点にこそ、このウイルスの怖ろしさがあるからです〉
こう語るのは、白鷗大学教授の岡田晴恵氏だ。
日本でも45万人の死者を出した「スペインかぜ」との比較
岡田氏の専門は、感染免疫学、公衆衛生学。独マールブルク大学医学部ウイルス学研究所に留学後、国立感染症研究所ウイルス第3部研究員を務めた。感染症対策の豊富な実務経験がある一方で、「感染症の歴史」や「感染症関連の政策・法律」にも詳しい。『感染症は世界史を動かす』(ちくま新書)『人類vs感染症』(岩波ジュニア新書)など多数の著作がある。
「感染症は、自分だけが助かろうとしても助かるものではない。社会全体として流行を小さくすることが、家族や自分の命を救うことにつながる。そうした『知識』を国民が共有することこそ、何にもまして重要な対策(=“知識のワクチン”)となる」という信念のもと、メディアで精力的に啓蒙活動を行っている。
岡田氏によれば、「集会規制・行動規制」がいかに重要であるかを理解するには、1918年~1920年に大流行し、世界で5000万人以上(当時の総人口は約20億人)、日本国内で45万人(当時の総人口は約5500万人)もの死者を出した「スペインかぜ(スペイン・インフルエンザ)」の経験が参考になるという。
“新型コロナ検査難民”が続出
〈米国の都市セントルイスとフィラデルフィアの死者数の推移(1918年9月下旬から12月にかけて)を比較したグラフがあります。
この間、フィラデルフィアの死亡率が0.73%なのに対し、セントルイスは0.3%で、他の大都市と比較しても、最低水準に抑えられました。これは、セントルイス市長の英断によるものです。
セントルイスでは、市内に最初の死者が出ると、市長がただちに「緊急事態宣言」を出し、1週間以内に、全学校、劇場、教会、大型販売店、娯楽施設などを閉鎖し、葬儀を含む集会を禁止しました。会議も、フットボールの試合も、結婚式もすべて延期されたのです。
当然、こうした「集会規制・行動規制」に対しては、商売に悪影響を及ぼすとして、市民や企業家から大きな反対がありました。しかし、市長は、「私は市民が死亡することは望まない」として、みずからの“政治決断”で断行したわけです〉
こう述べる一方で、岡田氏は、現在の対策の問題点を次のように指摘する。
〈PCR検査は、日本の「検査能力」に比して、「実際の検査件数」があまりに少なく、「報告されている感染者数」は、明らかに“氷山の一角”です。これでは、感染症対策の要諦である「流行の現状把握」などできません。“公式の感染者数”が、この程度でとどまっているのは、単に「検査対象」が限定されているからです〉
〈「医師が総合的に必要だと判断」(国の方針)しているのに、検査ができないという“新型コロナ検査難民”が臨床現場で続出しています〉