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 フライト時間は15時間40分~17時間40分だが、そのうち離着陸時には利用できないため、かりにスカイネストを利用できる時間を14時間と見積もると、1時間あたり約7000円となる。実際にはベッドメイクなどの時間も必要となるし、シーツなどのコストもかかってくるのでこれよりもやや高いと考えた方がいいだろう。 とはいえ、215席あるエコノミークラスのうち207席以上、つまり搭乗率が96%以上にならないかぎり影響は出ない(2019年のニュージーランド航空の欧米線の平均搭乗率は約85%)し、「スカイネスト」をいったん設定した以上、多くの顧客が許容する金額でなければ利潤を最大化できないので、実際にはこれよりも安い金額設定になるのではないかと想定している。

じつはJALにもあった「機内寝台」

「機内寝台」というアイディアは斬新なようだが、過去の航空旅行の歴史をひもとくと、同様のサービスは85年も前から提供されていた。たとえば1930年代後半のアメリカ大陸横断便では、ダグラス・スリーパー・トランスポート(http://dc3dakotahistory.org/a-dst-trip/)とよばれる寝台航空機が運航されていた。これは当時の新鋭機であるダグラスのプロペラ機で、1つの通路をはさんで左右に7ずつ、計14のベッドを配置したものだった。

 当時のアメリカ大陸横断には丸一日を要していたことからアメリカン航空の要請によって誕生したサービスだが、結局収益を追求した結果、同じスペースに倍の28席ないし32席を配置するようになったのが大ベストセラー機となったDC-3である。ボーイング社は1939年にB314クリッパーとよばれる飛行艇も完成させた。こちらは寝台を最大50も設置できる仕様でダイニングルームまでもうけられていたが、12機しか製造されず、1946年には退役するなど短命に終わった(https://www.businessinsider.com/photos-the-luxurious-boeing-314-clipper-2013-8)。

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 戦後も、爆撃機B29を改造した旅客機である、「空飛ぶホテル」ともよばれたB377ストラトクルーザーにも寝台が導入された。だが、1958年に大型のジェット旅客機であるB707が誕生すると、優雅な空の旅は消え去ってしまった。

 日本の航空会社も寝台を導入したことがある。1978年から1980年代後半にかけて、欧米路線に就航するJALのB747のアッパーデッキには、「スカイスリーパー」(https://www.gqjapan.jp/life/travel/jal-first-class-services-retrospect)とよばれる寝台が設置されていた。これはファーストクラスの利用客がさらに追加料金を支払って利用するもので、あまりに高額なため、稼働率は高くなかったようだ。

寝台用に改造されたJALジャンボ機の2階ラウンジ。“寝ながら目的地へ”とJALが長距離国際線ファーストクラスで提供していたサービス ©共同通信社

なぜ現在の航空機には寝台が存在しないのか?

 現在、世界中の民間航空機において、フルフラットシートではない純粋な寝台はほとんど存在しない。数少ない例外の一つは乗務員が交替で休憩する際に用いるクルーレスト(クルーバンク)だ。これはメインキャビンの上部ないし下部に配置されており、2段寝台となっていることが多い。だが、もちろん私たち乗客は利用することができない。

 クルーレストについては、以下の記事などでそのようすを知ることができる(世界最長フライト、CAの秘密のベッドをチェック https://www.businessinsider.jp/post-178351)。