それから半年後、同年10月の参院法務委員会。森氏は被災地出身議員をアピールするかのように、この問題にこだわる。
「震災後、いわき市の福島地検いわき支部それから地裁いわき支部も、ちょっと時を異にしておりますが、15日、16日に次々と庁舎を閉めて16日には郡山の方に移動してしまった。それに先立ち、地検では勾留をしていた被疑者を全員釈放する、処分しないで釈放するということがあり、その中には女性の家に押し入って手錠をはめて性的犯罪を犯すという容疑者もおりましたし、釈放されたうちの被疑者がまた再犯を起こしたということも起こりました。あの当時、いわき市は避難地域でありませんでした」
これに対し、当時の平岡秀夫法相は「福島地検いわき支部の移転の状況というのは、この支部管内において死者、行方不明者が多数に上り、建物等にも甚大な被害が及ぶとともに水道などのライフラインも途絶えた状況にあって、さらに余震も相次ぐという状況の中で、このいわき市内の支部庁舎に関係者を呼び出して取り調べを行うことが事実上困難になるというようなことで、いわき市内の庁舎での執務遂行が大きな支障が生じるようになったということが大きな避難の原因であったというふうに思います」と答えている。
「東日本大震災の時、検察官が最初に逃げた」
このやり取りが、今回の騒ぎの伏線にある。森氏は今月9日の参院予算委員会で検察官の定年延長問題に関して野党議員から「どのような社会情勢の変化があって日本中の検察官の勤務延長が必要になったのか」と質問され、「東日本大震災の時、検察官は福島県いわき市から市民が避難していない中で最初に逃げたわけです。その時に身柄拘束をしている十数人の方を理由無く釈放して逃げたわけです。そういう災害の時も大変な混乱が生じると思います」と答えた。
法務省幹部は、多くが検察官。大臣が自分の部下たちをおとしめる発言に、野党の側が「検察官を愚弄した」と批判し、皮肉な構図になってしまった。安倍首相としては、新型コロナウイルスの急拡大に備える改正新型インフルエンザ等対策特別措置法の成立を最優先したかったのだろう。12日に森氏を呼び出して厳重注意し、早期の事態収束を図った。