若手社員の困った声が響く。
開始時間を10分すぎてもアクセスできていないため、若手社員が課長にスマホで連絡。操作方法を逐一レクチャーしている。そのうちに部長から社員のスマホに連絡が入る。
「おい、いつまでたっても会議が始まらないじゃないか」。部長はかなりご立腹の様子。社員が一生懸命操作方法を話す。
結局、会議がスタートできたのは予定時刻を大幅に遅れた20分後であったという。
生き生きとした若手社員、会議に入れない上司
web会議では担当社員がエクセルやパワーポイントなどの資料を画面に表示しながら説明を行う。ポンポン切りかわる画面。説明する社員の顔も映し出される。
さて質疑応答だ。いつになく若手社員から質問が出る。画面は発言した社員に切り替わる。若手社員はチャットをやりながら育ってきたので、そもそもこうしたシステムの扱いには慣れている。次第に会議はチャット感覚に短く切られた会話の応酬となる。
webでない通常の会議であれば課長が中心に質問を浴びせ、若手社員は課長や部長の顔色をうかがいながら黙って俯いているのが常なのに、いつもと様子が違う。
上司たちが会議に入ってこられないのだ。web会議では会議室という「場」が醸し出す雰囲気が感じられない。つまりそこに存在してさえいれば「権威」となり、どこかしら「オーラ」を出していることになる課長や部長という「存在」を、暗黙の裡に見せる機会がないのだ。
雑然としたダイニング、髪もぼさぼさ……
雰囲気を察知した私の知人はあわてて「あの、部長はいかがでしょうか」とマイク(webにはマイクは存在しないが)を向ける。
「ああそうか。いやみんなごくろうさん」
やっと発言の機会を得た部長の姿が画面上に大写しになる。
自宅なのでいつものパリッとしたスーツ姿ではなく、どこからみてもユニクロの室内着。髪もぼさぼさ。ちなみに背景には雑然としたダイニングと食器棚が映る。いつもの部長の権威は微塵も感じることができない。
そこからは妙なことが起こった。部長は延々としゃべりだしたのだ。しかもその内容は正直プロジェクトの内容に沿ったものからは外れて、次第に経験談ばかりとなり、しかも今回挑戦しようとしている新規事業に関する知識をほとんど持ち合わせていないことまで露見してしまったのだ。
会議終了予定時刻はとっくにオーバーしているので彼はあわてて部長の言葉を遮り、会議は終了となったという。