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カープ実況アナ、人生初の“無観客”で発見したこと

文春野球コラム2020 開幕延期を考える

2020/03/19

実況は「球場の空気を伝える」ものだと実感

 ただ、いつもと違う環境は、実況者泣かせでもある。例えば、アウトカウントだ。何気なく確認していたアウトカウントだが、無観客試合、油断すると、アウトカウントを間違いそうになる。いかに3アウトの大歓声が、実況を助けてくれていたかということだ。

 目で確認するのが実況の本筋だが、フェアかファールか、打球がスタンドインしたか否か、外野手がノーバウンドで捕球したかどうか、スタンドの歓声や雰囲気に判断を助けられることもある。あらためて、実況は「ボールを追う」だけでなく、「球場の空気を伝える」ものだと実感した。

 もちろん選手の声も耳に入ってきた。6年目の塹江敦哉が154キロをマークしたとき、8年目のムードメーカー上本崇司が四球を選んだとき、ベンチからは彼らを称える声が飛んでいた。そもそも3連覇のときから、カープはそんなチームだった。

 進塁打でハイタッチ、ファールで粘って拍手喝采、若手の頑張りを声で後押しする。そんなチームカラーで、切れ目のない攻撃を可能にしてきた。あらためて、この日のベンチの声からもチームカラーの方向性が見えてきた。

寂しくもあるが、受け止めていくしかない

 音は、いろんなことを教えてくれる。ゲストのアンガールズ田中卓志さんが椅子の上で正座して試合を見ていたことも、椅子の軋む音で気がつけた。

 球場の向こうを小型飛行機が飛んでいた。在来線は新幹線より音を立てて、駅に入っていった。球場近くでは、子供が声をあげて遊んでいることもある。

 野球は社会の中にある。野球は人の営みの中にある。だからこそ、この開幕延期だ。寂しくもあるが、受け止めていくしかない。ベテラン音声マンが言った。「無観客試合で大きな経験ができました。音があることを、あらためて知りました。開幕したら生かしたいですね」。

 この言葉が真理かもしれない。

 ただ、せっかくなのでコツをひとつ紹介したい。ペーパーノイズである。我々は、解説者に話を向け、その間に書面資料を手繰り、その場面に相応しいデータを探すことがある。しかし、無観客試合、それでは自分のマイクが紙をめくる音を大きく拾ってしまう。これでは、リスナーの興がそがれてしまう。ならば、自分が喋っているタイミングで書類をめくった方が、ノイズはマイクに乗りにくい。と、まぁ、本質からは離れた発見もあった。

 現時点で開幕の日は見えてこない。しかし、経験を生かすしかない。これは、いかなる役割の人間にも共通して求められることであろう。

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