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なぜワイドショーは解説しないのか? 「PCR検査をどんどん増やせ」という主張が軽率すぎる理由

もしも都民全員に検査を実施したらどうなるか

鳥集 徹 2020/03/21

もしも東京都民1000万人に実施したら……

 検査の実用性を評価するには、真の感染者を正しく陽性と判定できる確率を示す「感度」と、非感染者を正しく陰性と判定できる確率を示す「特異度」を考慮しなくてはなりません。新型コロナウイルスのPCR検査の感度は高くて70%程度ではないかと言われています。つまり、30%以上の人は感染しているのに「陰性」と判定されてしまうのです。これを「偽陰性」と言います。

 一方、特異度については不明ですが、どんな検査でも100%はないと言われています。仮に特異度が極めて高く99%だったとしても、100に1人は感染していないのに「陽性」と判定されてしまうことになります。これを「偽陽性」と言います。

 さて、この感度70%、特異度99%を前提に、東京都民1000万人のうち1万人(つまり0.1%)が新型コロナウイルスに感染していると仮定して、都民全員にPCR検査を実施した場合を考えてみましょう。なお、検査対象が感染している(疾患を有している)確率を、「検査前確率(事前確率)」と言います。

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 すると、上の(表1)の通り、正しく陽性と判定できる感染者が7000人(1万人×70%)、一方、間違って陽性と判定してしまう非感染者が、9万9900人(999万人×1%)となります。

陽性と判定されても、本当に感染している確率は6.5%

 陽性の検査結果が出た人たちのうち、実際に感染している人の割合を「陽性的中率」というのですが、それを計算すると7000人÷(7000人+9万9900人)×100なので、約6.5%となります。つまり、陽性と判定した人の中で本当に感染している人は、100人のうち6~7人しかいない計算となってしまうのです。

 それだけでなく、実際には感染していないのに、陽性とされてしまう「偽陽性」の人が10万人近くも出てしまうことになります。現在、新型コロナウイルスは指定感染症になっているので、たとえ軽症であったとしても、陽性の人は法律に基づき病院に隔離しなくてはいけません。

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病院に改造された武漢市の施設 ©AFLO

「軽症な人は病院ではなく家から出ないようにしてもらえばいい」という意見もありますが、1000万人にPCR検査をすると何の症状もなく元気なのに2週間も家に閉じこもらねばならない人が、10万人近くも出てきてしまうかもしれないのです。人権上、このようなことが果たして許されるでしょうか。