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2020/03/20

「イチローになりたいと子どもが言ったら……」

《成功者は、思いも寄らないことで成功している。
 失敗した人も、思いも寄らない落とし穴に落ちている。
 強く思えば、大きくそれる。
 より速くまっしぐらに走れば、より遠くへそれてしまう。(中略)
 少年も青年も、大志を抱いて、がむしゃらに努力をしないことが肝腎だ。
 努力をしても無駄になるからするなと言っているのではない。
 無駄を恐れることはないが、抱く大志は君たちが抱いたものではなく、大人が抱かせているものだということを分かっていればそれでよい。

 乃木大将になりたいと言ったのは少年ではない。言わせた大人がいたから子どもが言ったのだ。そして、その子どもはどうなった。大人はそのことに責任を取るのか。絶対取りはしない。でも、子どもは自分で自分の口から出た言葉を、自分の耳が聞いて脳に働きかけて、自分の人生を作り始める。青年はこんな魔術に乗るな。大人は魔術をかけるな。どうせかけるなら捻(ひね)ってかけろ。

 イチローになりたいと子どもが言ったら、「バカなことを言うもんじゃない。貴乃花になれ」と言ってやる。
 中田英寿になりたいと言ったら、「石原裕次郎になれ」。
 明石家さんまになりたいと言ったら、「お菓子屋さんになれ」。
 パイロットになりたいと言ったら、「無農薬野菜農家になれ」と言ってやる。
 子どもに人生にはいくつもの道筋があることを示してやることは大切だ。
 
 若いときの苦労は買ってでもしろ、などとまやかしを言うのではない。
 苦労も努力も夢も現実も、すべてが後で考えれば、「思いも寄らぬこと」になる》(※5)

上岡龍太郎(1985年撮影) ©文藝春秋

 読んで納得させられるとともに、何だかうまく言いくるめられたような気もする。これぞ上岡龍太郎の真骨頂だ。芸能から政治にいたるまでこの世のあらゆる事どもに対し、誰よりも辛辣で的確な指摘をしてみせた彼はいまでも、テレビを見たり街を歩いたりしながら、ひとり小言をつぶやいたりしているのだろうか。

※1 『週刊文春』2003年1月2・9日号
※2 戸田学『話芸の達人 西条凡児・浜村淳・上岡龍太郎』(青土社、2018年)
※3 上岡龍太郎『上岡龍太郎かく語りき 私の上方芸能史』(筑摩書房、1995年)
※4 戸田学『上岡龍太郎 話芸一代』(青土社、2013年)
※5 上岡龍太郎・弟子吉治郎『“隠居”のススメ 好き勝手に生きる』(青春出版社、2003年)
 このほか、上岡龍太郎・弟子吉治郎『引退 嫌われ者の美学』(青春出版社、2000年)なども参照しました(弟子吉治郎氏の「吉」は正しくは「土」に「口」です)

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