昨年8月、金融機関にとって衝撃的な事件が発生した。
東京・江戸川区に住む71歳の男性が大手証券会社の担当社員を自宅に呼んで「ぶっ殺す」と迫り、脅迫容疑で逮捕された。男性は、妻が購入した金融商品で500万円の損が出たことに腹を立てていた。担当社員を呼び出した時に刃物を持ち出しており、惨劇が起きたかもしれなかった。
問題は、この男性や妻だけが“被害者”ではないことだ。
新型コロナで“特殊な金融商品”に手を出した高齢者が……
新型コロナウイルスの影響で世界中の株価が暴落し、為替が乱高下している。
暴落により投資家は至るところで損失を出しているが、中でも、内容を理解できないまま“特殊な金融商品”を購入した高齢者の損失が爆発する可能性があるという。
冒頭の事件の男性の妻が購入したのは、国内の証券会社が13年~15年に販売した「仕組み債」と呼ばれる金融商品の1つ。
国が発行する国債や企業が発行する社債などの「債券」は、投資家が購入すれば、約束された金利が付いて5年後、10年後などの満期時に償還される。国や企業が破たんしない限り金利が付いて償還されるため、安定した投資先と言える。
「仕組み債」も債券の一種だが、オプション取引を組み込んだもので大変複雑だ。
購入者2万人、損失額は合計1000億円超え
男性の妻が購入した仕組み債は5年満期で、トルコの通貨「リラ」やブラジルの通貨「レアル」に連動し、為替が安定していれば4~10%の高い利回りが得られる一方、通貨が安くなれば一気に大きな損失が出るものだった。
販売された当時、ブラジルは2016年のリオデジャネイロ五輪が控え、トルコは24年の五輪開催が期待され、「通貨は安定して高くなる」と謳われた。しかし実際は逆に通貨が安くなり、この仕組み債を購入した2万人が次々と損失を出し、損失額は合計で実に1000億円を超えるという(人数は件数で、1人が2件以上購入している場合がある)