6月3日、金融庁の金融審議会が発表した「高齢社会における資産形成・管理」の報告書が波紋を起こしている。報告書の中で、高齢夫婦が30年間、ほぼ年金に頼る生活を送った場合、約2000万円が不足するという試算が示されていたのだ。年金に何が起こっているのか? 閣僚らの発言を集めてみた。

麻生太郎 副首相兼財務相
「(年金だけでは)あたかも赤字ではないかと表現したのは不適切だった」

朝日新聞デジタル 6月7日

麻生太郎氏 ©時事通信社

 金融庁の報告書は、総務省の家計調査のデータを使った試算として、年金暮らしの高齢夫婦の場合、年金だけでは「毎月の赤字額は約5万円」と指摘。不足額を老後の20~30年間まかなうために、1300万~2000万円の蓄えが必要になるとしていた。それに備えて、積立て投資などによって資産形成を国民に呼びかける趣旨だった。

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SNSで批判が巻き起こると態度が一変

 麻生氏も発表当初は報告書の内容を受けて「きちんとしたものを今のうちから考えておかないかんのですよ」(テレ朝news 6月4日)などと肯定的な発言をしていたが、SNSなどで「2000万円を自助努力で準備しろというのか」「年金だけでは安心して暮らせないのか」などと批判が巻き起こると態度が一変。

 7日の記者会見では「(年金が)月20万円のところを、豊かに暮らすため25万円にするには5万円足りない、65歳で(老後が30年間とすると)、だいたい2000万円という話だ」と報告書の試算について語り、「あたかも赤字だと表現したのは不適切だった」と述べた。

 公的年金だけでは老後の生活資金が足りなくなる。だから、資産形成のために「自助」したほうがいいというのが報告書の提言である。だが、ここから政府は躍起になって報告書そのものを否定しはじめる。

「誤解を与える内容だった」

安倍晋三 首相
「不正確であり、誤解を与える内容だった」
「『年金
100年安心がうそだった』という指摘には、『そうではない』と言っておきたい」
NHK政治マガジン 6月10日

「桜を見る会」での安倍晋三首相 ©文藝春秋

 6月10日の参議院決算委員会では、野党側から「『年金制度は100年安心だと言っていたのはうそだったのか』と国民は憤っている」と指摘されたが、安倍首相は「そうではない」と退けた。

「100年安心」というキャッチフレーズは2004年、小泉純一郎内閣が人生100年時代の到来を想定し、100年間持続できる制度を目指して年金改革を行ったときに生まれたもの。ここで言う「安心」とは、年金制度が持続する「安心」であって、人々が年金で「安心」して暮らせるという意味ではない。15年前は、年金制度が安心なら人々の暮らしも安心だったのかもしれないが、現在はそうではないのである。

 また、安倍首相は報告書について「不正確」だと述べたが、何が不正確だったのだろう?