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「同性愛は性欲のかたまり」映画で再生産された偏見

七崎 松岡さんは、この映画公開当初から内容について問題提起されていますね。改めて、今回のこの映画の問題点を簡単にまとめていただいてもよろしいですか。 

松岡宗嗣さん(以下、松岡)一番問題なのは「噛まれたら同性愛に感染する」という設定と、映画に出てくる同性愛の描き方が単に性欲の塊として描かれていて、「異性愛とは本当の愛で、同性愛は性欲のかたまりなんだ」という位置付け、それらをキチンと回収しない文脈に問題があると思います。 

 制作側は「差別する意図はなかった、異性愛も同性愛も同じと思っていたし、愛は自由と思っている」と弁明しているのですが、当人たちが本気でそう思っていることは否定しません。しかし、設定や脚本、演出などを総合して見ると、今まで同性愛に対して行われてきたレッテル貼りや、偏見を再生産するだけのものだと感じました。 

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松岡宗嗣さん

七崎 ありがとうございます。溝口さんはこの映画を観るつもりはないそうですね。 

溝口彰子さん (以下、溝口) 当初、この座談会は「バイバイ、ヴァンプ!」について検討すると伺ったので「その映画、観たくないから無理です」とお断りしました。すると、「映画の内容についてではなく、これをきっかけに、差別的な表現物が出てきたときにどう対処したらいいのか考えるため、映画史や映画理論を学んだ立場から意見を述べて欲しい」とセカンドオファーをいただき、こうして参加しました。  

七崎 観に行かないというのも一つの選択としてアリですよね。 

溝口「バイバイ、ヴァンプ!観たよ、オタクの感想」というタイトルの、推しの俳優さんが出ているから観に行ったけれどこの映画は問題だと思うということを綴ったブログを読んだんです。

 BL愛好家やアイドルおたくの方たちって、一見、楽しんでいるだけのように見えても、いざとなるとものすごく賢明に冷静に論じるかたが大勢いらっしゃるんですが、このブログを読んだときに「この方もそれだな。信頼できるな」と思ったので、これはもう、観る必要はないなって思いました。  

溝口彰子さん

公開停止を求めるのはアリなのか

松岡 推しが出てるからこそ、冷静に批判できるのはすごく大事なことだと思います。 

 ボイコットという手法もありえますよね。私は、そもそも議論を起こさなければ、何が問題なのかを多くの人に気づいてすらもらえないので大事だと思っています。公開停止をもとめることは、こうした議論を巻き起こす効果があると思います。 

七崎 お2人は今回の、公開停止を求める署名運動に署名されていますよね。 実は……僕は署名を躊躇している間に終わってしまった。躊躇したのは上映を停止すること自体が目的ではないのかなって思ってしまったからなんです。 

 ヘイト映画によってこれ以上傷つく当事者が増えないように、今後このような表現物が出てきたときにどうすればいいのかを、こうやって話し合っていくことの方が大事なのかなって思ったんですよね。