松岡 公開停止や中止を求めることが“規制”のように感じられて違和感を持つという気持ちはわからなくもないです。もし制作側が、問題となる部分をもっと良い表現に変えて再び上映するとか、なんらかの対処があればもちろん公開停止でなくても良いと思います。
でも、正直なところ、この作品の場合はどう考えてももう変えようがないというか、どう頑張っても差別的としか受け取れないものだと私は感じました。
80年代ハリウッドで何が起こったか
溝口 差別されているマイノリティの側が、差別してくる作品に対して「NO」と言うのは当然やるべきですよ。
映画史で言うと、1980年のアメリカ映画「クルージング」では、NYのゲイのレザー・クラブ(レザー・フェチのゲイが集うナイトクラブ)を舞台に、ゲイを標的とするシリアルキラーを潜入捜査する異性愛者の男性警察官が、ゲイたちと接触するうちに、ゲイであることと殺人鬼であることが移った、というふうに描かれました。ゲイという性的指向が大量殺人を起こす要因のように描かれたんです。
そのときに、NYのゲイやレズビアンは「STOP THE MOVIE CRUISING」と掲げてデモをしたり、撮影を妨害したりした。だって、目の前で「同性愛者=シリアルキラー」って映画が撮影されているわけですから。
松岡 今回の映画も「同性愛=性欲の塊」で、その感染を抑えようという内容でしたから、全く同じ構造ですね。
溝口 主演のアル・パチーノは当時「レザー・クラブがゲイ・コミュニティのごく一部でしかないということは、マフィアはイタリア系アメリカ人社会のごく一部でしかないことと一緒。これはアンチ・ゲイの映画ではない」と、映画「ゴッドファーザー」(1972)を引き合いに出したコメントをしました。
その後、すごく時間がかかったけれども、ハリウッドの映画は進化して、「MILK」(2008)や「ムーンライト」(2016)を生んでいます。
まあ、名優アル・パチーノが主演したということで、良くも悪くも映画史に刻まれる「クルージング」と、「バイバイ、ヴァンプ!」の社会的影響力の大きさは比べ物にもならないとは思いますが。
七崎さんが後悔している自身の言動
七崎 確かに……。私、個人的にはね、今回の映画は、上映停止を求める署名運動がなければ多くの人が出会っていない作品だと思うんです。批判をすることが一つの作品として認めてしまっているような気もするし、ほっとけば誰の記憶にも残らず消えていくレベルの、映画とも呼べないような作品だった気がして……。
ただ、僕は今回の件で、自分がダメな行動パターンをしてしまったと反省しているんです。
溝口 公開当初から、高くないギャラで起用できる若手俳優のファンを見込んで作った低予算映画だ、という見方が多かったですよね。ダメな行動パターンって、お金を払ったとか?
七崎 お金払って2回も観に行って、2回傷つきました。
松岡 しんどいですね。なんで2回も観に行ったんですか?
七崎 1回観て、この映画に対して批判的なコメントをSNSに書いたんです。そうしたら「観る前から批判的な目で観ていたんじゃないか」とかそんなことを言われたりして、それだったら次はニュートラルな気持ちで観てやろうじゃないかと。
それでまた傷つくだけだったんですけど、僕、愚かでしょ?
松岡・溝口 そうね!(笑)