ホフディランも「渋谷系」に乗っときゃよかった
水野 ちょっと話がそれるけど、小宮山君はどっち派なの? 自分がこだわって作ってきたカレーが誰かから「ギャモン」と呼ばれた時に、「俺のこのカレー、ギャモンでいいよ」っていう派か、それとも「いや、俺のカレーはギャモンじゃないからそっちには入らない」っていう派か。
小宮山 それは、社会人になって20年たつわけだし、ギャモンでいいですよ。
水野 えっ、そう! そっち派ですか。
小宮山 いや、以前は絶対ギャモンには入らなかったですよ。ホフディランは「渋谷系」って呼ばれ始めた時、もう18年間、「別に渋谷系じゃないよ。ホフディランはホフディランだ」って言ってきたけど、20年たって一周くらいした今思えば「渋谷系、乗っときゃよかったじゃん」っていうのはある(笑)。
水野 一周してね。かといって、今からホフディランが渋谷系を言い始めても(笑)
小宮山 それは(笑)。 だけど「あなたは渋谷系ですよ」って言われても、受け入れるくらいに大人にはなった。
水野 そうか。僕、この前NHKの『あさイチ』でスパイスカレーを紹介してくれって言われて出演したんです。そこで、いつも僕が紹介している基本の3種類のスパイス(ターメリック、カイエンヌペッパー、コリアンダー)があるんですけど、台本に僕のコメントとして「このスパイスを神3スパイスと呼びます」って書かれていたんですよ。僕、1回はまず、それを見なかったことにしたんですけど、もう1回よく見たら、「この3種類のスパイスを僕はいつも神3スパイスと呼んでます」と。待て、ここは見過ごせないと(笑)。
本番まですごい悩んだんです。「神3スパイス」っていう、僕からするとサムいこの言葉を受け入れて使うのか。もしくはやっぱり「すみません、神3スパイスは言えません」って言うのか。そもそも、「神3スパイス」って、まず、カミサンスパイスなんだかカミスリースパイスなんだか、読み方が分からないじゃない? で、現場でギリギリまで悩んで、結局「いつも“三種の神器”と呼んでいるんで、それでいいですか?」ってディレクターに聞いたら「いいですよ」と(笑)。結局は解決したんですけど、これ、渋谷系とかギャモンの問題と一緒ですよ。
小宮山 僕も、民放ですけど1回ありますよ。やっぱり番組でカレーを紹介してくれと言われて。ディレクターとの打ち合わせの時に「じゃあ、小宮山さんにとっては、カレーって小宇宙みたいな感じですね」って聞かれて「ん?」と思ったけど「まあ、そうですかね」って答えたんですよ。で、本番の収録の時、「じゃあ、小宮山さんにとってカレーって何ですか?」と聞かれて、
「そうですね、やっぱり毎日食べるものです」
「ということは?」
カンペには「小宇宙」って書いてあるんですよ(笑)。
「っていうことは?」
「そうですね。だから、ほんとに人生の一部ですね」
「っていうことは?」
「うーん、小宇宙ですかね」って最後に言ったら、そこだけ使われてた(笑)。
水野 大人になったじゃないですか(笑)。
小宮山 民放とNHKはそこが違うのかもしれないけど、ほんとすごい圧だった。言うまで帰さない、なんでこれ(カンペ)が見えねえんだ、っていう感じで(笑)。でも僕は、むしろ水野君のほうが、広告代理店出身だったのも含めて乗れるタイプかなと思ってた。
水野 うーん。やっぱり乗れるにも限度があるよね(笑)。
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水野仁輔(みずのじんすけ)/1974年静岡県出身。1999年に出張料理集団「東京カリ〜番長」を結成。これまで出版してきたカレー本は40冊以上。2016年春、本格カレーが作れるスパイスセットを毎月届けるサービス「AIR SPICE」をスタートした。
小宮山雄飛(こみやまゆうひ)/1973年東京都出身。ホフディランのVo&Key担当。ミュージシャンのかたわらグルメにも精通し、雑誌連載やカレーレシピ本出版など食のシーンでも活躍。地元渋谷区の観光大使も勤め、食に渋谷に音楽に、 POPな日々を送っている。
撮影/末永裕樹(文藝春秋)
(#2に続く)