売主側が強気に出られない理由
だが、売主側もこの事態に対して契約を盾に取り、キャンセルについて強い対応がとれるのかと言えば、難しい側面もある。何しろこのマンションはまだ3000戸以上を売り続けなければならないからだ。
ここで強気に出られるほど、第一期の販売状況は順調とは言い切れなかった。ただでさえ、今から3年後の引渡しであったものが、4年後に延びるということは、将来の社会や経済に対してある程度楽観しなければ、とても購入の判断がつきにくいこととなる。
これまでは不動産マーケットの活況を背景に、(不確かながら)まだこの好景気が続くと考えて購入を検討する顧客も一定数いたものと考えられるが、今回の騒ぎによってマーケットのスタンスがかなり悲観的な方向に傾くリスクが高くなったと言わざるを得ない。
強気の対応がかえって今後の販売にネガティブに働くとすれば、ここは手付金を返還してキャンセルに応じる柔軟な姿勢をみせることも、販売戦略上は必要かもしれない。ただ販売会社は三井不動産レジデンシャルをはじめ計11社もの大所帯。全社の合意をとるのは至難の業であろう。
HARUMI FLAGは「それでも買い」か?
さてこうした大きな環境変化に襲われたHARUMI FLAGは「それでも買い」といえるのだろうか。
東京五輪自体、1年延期されたとはいえ、来年7月に確実に開催されるという保証は残念ながらない。状況改善が遅れて2年延期などとなれば、引渡し・入居開始はさらに延びて25年3月などとなり、さすがに今から5年後を見通すことを嫌気する顧客が増えてもおかしくはない。
建物自体はすでに完成しているので、いくらフルリノベーションするからといっても、実質築5年のマンションを購入することに、多くの人は躊躇しはじめるのではないだろうか。経済状況が一変することで、昨年時点では「相場より割安」などと捉えられていた価格も、微妙なものになる可能性も否定できない。
分譲総戸数4145戸の巨大戦艦HARUMI FLAGの羅針盤はどの方向を示せばよいのか、荒海の航海を覚悟しなければならなそうだ。