「いい声だよね」と言われるとやっぱりうれしい
確かに押し出しの強い存在感ある声だけに、日常的な空間においては過剰に聞こえることもあるかもしれない。しかし、逆にアメ横での商売ではそれが利点となるわけだ。
「こちらも商売ですから店のほうに寄っていただいて説明して買っていただければ、というのがありますんで。だから、まず振り向いてもらわなきゃいけないし、店まで来てもらわなきゃいけない。そういう部分でやっぱりこの声が注意を引くというか興味を持っていただくにはいいのかなと。あと、買う買わないは別にして、ご年配の方なんかは、この声を聞くと『いい声だよね』と言ってくださったりする。それは要するに魚屋さんに合ってる声という意味だと思いますし、やっぱりうれしいですよね」
お客さんを呼び込むコツ、殺し文句みたいなのはありますか?
「別に殺し文句っていうのはないですけど、まあ『見るはタダ、聞くはタダ』とかって言い方はしますよね。『別に買えとは言わないから、見るだけ見て』とか、そういうふうにとにかくお店の前まで来てもらう。あと、基本的には声だけじゃないんですよね。声はあくまでもきっかけのひとつにしかなりません。こういう商売は、前にいるお客さんが何を見てるかっていう、お客さんの目線をまず見ないといけませんから。お客さんのほうからすると『どういうものがあるんだろう』っていうので見る、そういう目線を見て『コレいくらだよ』とかって声はおかけします。だから、この声で振り向いていただけるというのは多少なりともあるとは思うんですけど、自分の考えの中ではあくまでもお客さんの目線を見るのが大事なんです」
ダミ声の裏に繊細な観察眼あり。目は口ほどにものを言い――というのとはちょっと違うかもしれないが、アメ横のおじさんにコミュニケーションの極意を見た。