新型コロナの影響で沈みがちな世の中だが、こんなときこそ元気を出したい。というわけで、やってきたのが上野・アメ横商店街(※取材は緊急事態宣言前の3月上旬)。店頭に立つおじさんたちの威勢のいい呼び込みの声に聞き惚れる。
「はい、タラコ・明太500円。干物は1000円。ちりめんは500円でいいよ!」
通りを歩けば耳に飛び込んでくる名調子の呼び込み。年末ともなれば買い物客でごった返す様子とともにテレビニュースでもよく流されるので、誰しも一度は聞いたことがあるだろう。独特のダミ声は、それ自体がアメ横名物とも言える。
それにしても、あのおじさんたちはなぜあんな声なのか。いわゆる美声とは違うけれど、雑踏の中でも妙に響く声。飲み屋で「すみませーん!」と(自分なりに)声を張り上げても気づいてもらえないことが多い筆者としては、少しうらやましくもある。
アメ横の“ベテラン”に聞いてみた
「いやいや、プライベートではあんまり大きい声は出さないですから。仕事だから出せるんであって、そういうお店とかで声を張ることはしないですね」
そう苦笑するのは、アメ横の海産物店「丸茂商店」の小林正和さん(53)。20代後半からアメ横で仕事をしているベテランで、ダミ声にも年季が入っている。しかし、最初から店頭に立っていたわけではなく、今のような声でもなかったという。
「最初は基本的には裏方ですね。詰め物をやったりとか、そちらのほうが多かった。店に出るようになったのは2~3年してからかな。その頃はもちろん全然こんな声ではなかったです(笑)」
それがなぜ今のような声に?
「何ていうか、自分の中に“魚屋さんってこういう声”というイメージがあって、初めはそれを真似てた感じですよね」
誰か先輩とかに言われてやったわけではなく?
「ないですね。自分で勝手に真似してました。なんかやっぱり市場のセリのイメージとか、そういう思い込みがあったんでしょう。結局それが固定しちゃったというか。あと、もうひとつは声の出しすぎで、職業病っていうんじゃないですけど、声帯にポリープができちゃって。それもあって、今はもうこの声が地声になってしまいましたね」