新型コロナウイルスはヒトからヒトへ感染するとされてきた。ところが、いま世界で動物への感染事例が相次いでいる。3月中旬に香港で犬への感染が確認されたのを皮切りに、3月終わりにはベルギーで飼い主から猫へ感染、4月初めにはニューヨークの動物園で飼育されているトラにも陽性反応が出たという。
もしヒトから動物に感染するなら、犬や猫などのペットを飼っている飼い主はさらに心配の種が増えることになる。新型コロナは本当に動物にも感染するのか。野村獣医科Vセンターの院長である獣医師の野村潤一郎さんに話を聞いた。(取材・文=押尾ダン/清談社)
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本来、人間のウイルスは犬や猫に感染しないが……
──4月9日現在、世界各地で犬、猫、トラと、少数の動物への感染事例が報告されています。実際のところ、コロナウイルスは人間から動物にも感染するのでしょうか。
野村医師(以下、野村) 新型コロナは、まだ本当の正体も明らかになっていない未知のウイルスです。正直にいえば、動物については何もわかっていないに等しい状態ですね。世界中で多くの人が亡くなり、日本では政府から緊急事態宣言が出された。そういう状況では、動物に関する研究はどうしても優先順位が低くなってしまい、後回しにならざるをえないのです。
──研究が進んでいないということは、現時点の可能性としてゼロではない?
野村 ウイルスというのは、「宿主特異性」といって、本来は鍵と鍵穴の関係が厳密です。たとえば、犬の代表的な感染症にジステンパーがありますが、ジステンパーウイルスが人間や猫にうつったという話は聞いたことがありません。猫には伝染性鼻気管炎というヘルペスウイルスの病気がありますが、これが人間や犬にうつることもない。
口唇に水ぶくれができる人間のヘルペスも、やはり犬や猫にうつった話は聞いたことがありません。つまり、犬のウイルスは犬だけ、猫のウイルスは猫だけ、人間のウイルスは人間だけというように、ウイルスは本来、感染する相手が決まっています。ところが、ごく稀に、一部のウイルスが感受性の高い異種動物へ感染することがあるのです。