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「会社が国の助成金を利用してくれない」コロナ危機のなか、立ち上がり始めた労働者たち

不利な立場になりそうなとき、有効な権利行使の手段は?

2020/04/16

制度利用を促進するユニオンの団体交渉

 重要なことは、Bさんが、ユニオンに相談する前に、雇用調整助成金を活用して雇用を維持するよう自ら会社に求めていたという事実だ。しかし、上に述べたとおり、この求めに会社が応じることはなかった。

 会社が当初の方針を変更し、助成金の利用を決めたきっかけは、ユニオンの団体交渉であった。団体交渉を契機にはじめて具体的に検討した結果、助成金を使えばBさんを解雇する必要がないという判断に至ったのだという。

 雇用調整助成金については、申請のハードルが問題になっている。用意しなければならない書類が多く、資金繰りに奔走する中小企業の経営者にとって申請事務の負担は大きい。また、実際に助成金を受け取れるまでの期間が長いという問題もある。休業を実施し、休業手当を支払った上で支給申請を行い、2ヶ月ほどでようやく助成金が支給される(現在は1ヶ月程度に短縮)。それまで資金がもたないと諦め、従業員の解雇に踏み切ってしまうケースもあるだろう。

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 こうした事情から、深く検討しないまま助成金の申請を諦めてしまう経営者が一定数存在すると思われ、せっかくの制度が十分に活かされていない現状がある。

©iStock.com

 だが、ここにユニオンのような存在があれば、「交渉」のなかで労使双方にとって最善の道を模索することができるということがBさんの事例からは分かる。

要求しなければ権利は実現しない

 2つの事例から分かることは、ただ制度が整備されただけでは、労働者の権利行使は実現しないということだ。労働法の知識やユニオンの力を使って声を上げることによって、はじめて法的権利や制度を有効に利用できる。

 なお、雇用調整助成金について、厚生労働省は、手続きの簡素化や迅速な支給に向けた制度の改善を図っている。記載事項が大幅に簡略化され、必要な添付書類が削減されるなど、申請する際の負担が軽減されているのだ。

 この事実を知らない経営者も多いと思う。休業手当を支払ってもらえなかったり、解雇を匂わされていたりする場合は、この制度の活用を経営者に勧めることによって状況を改善できる可能性がある。困ったときには、是非、お住まいの地域のユニオンを検索して相談してみてほしい。

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