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「会社が国の助成金を利用してくれない」コロナ危機のなか、立ち上がり始めた労働者たち

不利な立場になりそうなとき、有効な権利行使の手段は?

2020/04/16
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コロナ解雇を撤回させた事例も

 ユニオンの団体交渉によって、解雇を撤回させた事例もある。

 Bさん(40代男性)は、3月中旬に突然、正社員として勤めていた製菓会社から退職勧奨を受けた。Bさんの会社では、両国国技館や上野動物園などに売店を構えて、力士や動物をかたどった草加せんべいを製造・販売していた。ところが、上野動物園が2月末からゴールデンウィーク明けまで臨時休園するなど、新型コロナの影響によって客足が途絶えた結果、生産の縮小を余儀なくされ、会社は人員削減に踏み切ったのだ。会社は、Bさんに「退職しないなら4月で解雇にする」と迫った。

大相撲は無観客開催 ©iStock.com

 自分の年齢ではすぐに次の仕事が見つからないと考えたBさんは退職を拒み、雇用調整助成金の利用を提案したが、会社は解雇すると言って譲らなかった。そこで、Bさんは総合サポートユニオンに加入し、雇用調整助成金の利用と解雇撤回を要求して、会社に団体交渉の申し入れを行った。

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 申し入れの際、会社は「助成金の仕組みをよく知らない」と難色を示したが、ユニオンは「ちゃんと検討しないと不当解雇になりますよ」と再考を促した。それから1週間も経たないうちに会社の回答があり、雇用調整助成金を利用した上で、助成率の引上げなどの特例措置がとられている6月末まではBさんの雇用を維持することを約束した。Bさんは「粘り強く交渉していけば道は開けるのだと実感しました」と話している。

雇用調整助成金とは?

 雇用調整助成金は、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた企業が、労働者を一時的に休業させるなどして雇用の維持を図った場合に、休業手当相当額の一部が企業に助成される制度だ。不況時や災害時には、失業者が増加しないように特例措置が設けられ、利用が促進されることが多い。

 現在も、新型コロナによる経済活動への影響が拡大していることから、支給要件の緩和や助成率の引上げといった特例措置がとられている。また、雇用保険に加入していない方や、雇用された期間が短い方(新規学卒採用者を含む)も特例的に対象となっている。

©iStock.com

 雇用調整助成金は、労使双方にとってメリットのある制度だ。現在、売上や生産が縮小している店舗や工場が多いと思われるが、この制度を使うことにより、人員削減を行うことなく厳しい状況を乗り越えられる可能性がある。少なくとも6月30日までは、上に述べた特例措置が認められる(通常は支給限度日数が100日とされているが、今回は特例により、4月1日から6月30日までの期間が「別枠」として利用できる)。現在のような状況がいつまで続くかは分からないが、助成金を使ってその期間を凌ぐことができれば、コロナ危機の収束後に、以前と同じように業務を再開できるはずだ。