そもそも「緊急事態条項」とは何なのか?
では、「緊急事態条項」とは何なのだろうか。自民党は2012年の憲法改正草案で緊急事態条項を新設。首相が武力攻撃や大規模災害などで緊急事態を宣言すれば、国会の関与なしに内閣が法律と同じ効力を持つ政令を制定できるよう提案した。また、その場合に国民は、国やその他の機関の指示に従わなければならなくなる。さらには、2018年に安倍首相が主導してまとめた「改憲4項目」では、大規模災害に限って国民の権利を一時的に制限したり、国会議員の任期を延長できるよう提案されている。
つまり、「緊急事態条項」に基づいて緊急事態を宣言すれば、国会の十分な審議を経ずに、内閣の権限で国民の権利を制限することが可能になる。また、基本的人権の「保障」は解除され、「尊重」に止まる。内閣が「どうしても必要だ」と判断すれば、人権侵害も可能になるということだ(THE PAGE 2016年3月14日)。
木村草太氏は「緊急事態条項」を「内閣独裁条項」と表現する(BuzzFeed 4月10日)。『憲法に緊急事態条項は必要か』などの著書がある永井幸寿弁護士は「国民ではなく国家のために『人権の保障』『権力分立』を一時停止する。場合によっては人権を犠牲にする制度です」と警告している(毎日新聞 2月14日)。
新型コロナはいい“お手本”?
馬場伸幸 日本維新の会・衆院議員
「どういう緊急事態が起これば、どういう発動がされるのか、何のためにされるのかということはね、国民は全然分かってないと思うのですね」
「こういう新型コロナウイルスの問題はまさしくいい『お手本』」
毎日新聞 2月14日
新型コロナウイルスの感染拡大に関して、緊急事態条項が話題に上ったのは今回が初めてではない。口火を切ったのは、1月28日の衆院予算委員会での馬場伸幸衆院議員(日本維新の会)の発言だった。
憲法改正の緊急事態条項について、国民の理解を深めるために新型コロナウイルスの感染拡大がいい「お手本」になるという主旨の質問で、安倍首相は馬場氏に対して「憲法に緊急事態をどのように位置づけられるかについて、大いに議論すべきものと認識をしております」と同調した。
ここから自民党の「緊急事態条項」発言が怒涛のように続く。
中谷元 自民党・元防衛相
「法律で対応できれば一番いいが、できないとなれば改憲議論が必要だ」
産経新聞 1月29日
1月29日、谷垣グループの会合での発言。1月28日、政府は新型コロナウイルスによる肺炎を「指定感染症」とする政令の閣議決定を行ったが、施行日となる2月7日までの周知期間を疑問視。緊急事態条項に触れて「改憲議論が必要」と述べた。