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2020/04/19

 よって、彼には声をかける瞬間すらなく、かけようものならとても嫌な顔をされる。忙しいからだ。方針転換など求めようものなら、「なんでみんな頑張ってるときにそんなことを言うんだ」と怒られる。

 海外でも危機時にはみな緊張している。米国の2001年の炭疽菌テロ事件のときなどは本当に忙しかったし、みな大変だった。しかし、リーダーはちゃんと休養をとり、睡眠もとり、現場をしばしば離れて自宅に戻り、家族と会い、リフレッシュして戻ってきた。「すべて」に対応しようとはせず、餅は餅屋で専門家に任せ、自分は全体像の把握と対応に専念し、マイクロマネジメントは極力避けていた。

 こういう人物になら相談もできるし、進言もできる。いろんな人が進言すれば、新しいアイデアも出てくるので、ベターなプランニングもできる。

©野澤亘伸

 日本だと、現場はいつもいっぱいいっぱいなので、意見はできない、よって当初の方針は変更できない。プランAに固執して、失敗したときの代替案(プランB)に舵を切れない。間違え出すと、いつまでも間違え続ける。

 これは、リーダーを含め個人の責任ではなく、ましてや彼らの誠意ややる気の問題でもなく、単に組織構造の問題なのだ。日本で何か問題提起し、改善を提案すると、すぐに「個人攻撃」と捉える人が多いので、この点は強調しておきたい。

「風邪くらいで絶対に休まない」日本人

 そして、このような、組織やリーダーが憔悴していっぱいいっぱいなときに、異端の存在は絶対に許されない。普段から同調圧力が強い組織なのだから、危機時にはさらにその同調圧力は強まり、異論は一切許さなくなる。そうやって、わざわざ望んで自分たちがより失敗しやすくするのである。

 結局、ダイヤモンド・プリンセス号では、回避できたはずの乗客やクルー、船内に入り込んだ官僚たちの二次感染(と推定される事例)が相次いだ。これらは回避すべき事態であったが、誰にも転進はできなかったのだ。

 このような異論を認めない、異端を認めないエートス(空気)が、『ぼくが見つけたいじめを克服する方法』で述べる「大人のいじめの構造」だ。大人の社会がいじめ社会だから、子供社会でいじめがなくなるわけがないのだ。