文春オンライン
岩田健太郎医師が語る 「風邪で休むなんて“ズル”」大人のいじめ社会・日本を変える方法

岩田健太郎医師が語る 「風邪で休むなんて“ズル”」大人のいじめ社会・日本を変える方法

2020/04/19

 しかし、もしかしたら、2020年の新型コロナ感染問題で、日本社会もようやく変わりつつあるのかもしれない。もちろん、良い意味で。

 新型コロナウイルス感染は、インフルエンザなどと違い、発症初期は軽症で、普通の風邪とたいして症状は変わらない。そしてこれが、日本で新型コロナが流行しやすい最大の原因なのだ。

「普通の日本人」なら、風邪くらいでは絶対に休まない。だから、通勤、通学してしまう。社会でウイルスを広げてしまう。

ADVERTISEMENT

新型コロナ対策は「“人と違う”ことを認めること」

 よって、新型コロナ対策は、病気になったら家で休む、やたらと病院に行かない(病院で感染が広がるので)、満員電車に乗らない、体調が悪いときに会社に行かない、といった対策を必要とする。

 これって、日本社会の「常識」をすべて覆せってことじゃないか。

 病気で会社を休みますと言うと、日本では必ず病院に行って「証明書」をもらってこいと言われる。同調圧力が強くて、「ずる」を許したくないからだ。自分たちが働いているときに休んでいる人間がいることに耐えられないのだ。

©野澤亘伸

 本当は、病気でパフォーマンスが落ちた人に仕事をさせても生産性は落ちるし、下手をすると自分たちだってうつされてしまうから、休ませてしまったほうが得策なのだが、そういう「生産性」とか「結果」には興味がない。全体のパフォーマンスが落ちてもいいから、俺より得するやつは許さない。

 こうやってみんなで一緒に地盤沈下していくのが同調圧力だ。誰かが得するくらいなら、みんな揃って損をしたほうがまし、という非常にねじれた思考プロセスである。

 クルーズ船内の感染を防御したら、みんなが得をしただろうに、気に入らない人物を排除することで、全員が感染リスクを高いままにしてしまう。まさに「みんな一緒に地盤沈下」の論理だ。

 そのような同調圧力に抗うことだけが、新型コロナの抜本的な対応策だ。これができるかどうか、「人と違う」ことに耐えられるかどうかが、2020年4月時点で、日本がコロナを克服できるか、の最大の決定要素の一つになっている。

 そして、日本の人たちが「人と違う」ことに耐えられるようになったとき。そのとき、日本のいじめ問題も(皆無にはならないまでも)多くは克服、軽減されるだろう。

 ピンチはチャンスだ。このような日本と日本人の可能性を期待して、本書を準備している。

「光文社新書note」でも岩田医師の記事を公開中です。

岩田健太郎医師が語る 「風邪で休むなんて“ズル”」大人のいじめ社会・日本を変える方法

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー