健さん演じる主人公と、志村けん演じる炭鉱夫の対比
酒に溺れる炭鉱夫も、本来は乙松のような真面目な男だ。しかしちょっと崩れた人物像である。その対比が乙松の人柄を際立たせる。炭鉱夫の息子を巡るエピソードも原作通りに回収されて、幌舞の人々の優しさを感じさせてくれる。
スト破りと言えば、劇中で国鉄の労働組合闘争が描かれる。これも原作ではわずかな文字数のところ、映画ではしっかりと時間を取って描写される。協力会社としてJR東日本やJR北海道が表示されているけれども、こんなデリケートな部分をよく認めたなあと思う。原作だけ確認して、映像化されてビックリしたかもしれない。いや、高倉健の映画に協力するという名誉が勝ったか。ちなみに高倉健は過去に新幹線を爆破しようとする役も演じているのだが。
鉄道ファンとしての見どころは、蒸気機関車、ディーゼルカーが何度も登場するところ。美寄駅として登場する滝川駅の佇まいなどだ。蒸気機関車は型番がしっかり映っているため、ロケ地がどこかわかってしまう。しかし、それだけに「上手く繋いだな……」と映画制作者の苦労がわかる。ちなみに序盤の美寄駅の場面で「トマム・サホロエクスプレス」がプラットホームに停車しており、これは原作の「ガラス張りのリゾート特急」を意識したと思われる。JR北海道の協力ぶりも素晴らしい。
映画に登場したディーゼルカーは原作ではキハ12と書かれているけれども、撮影時は現存せず、後年に製造されたキハ40をそれらしく改造した。撮影後も2005年に廃車されるまで、ほぼ同じ姿で営業運転していた。廃車後に半分だけ残されて展示されている。
自宅で映画『鉄道員(ぽっぽや)』を楽しむ
高倉健の晩年の名作であり、志村けんの客演で話題となった『鉄道員(ぽっぽや)』は、鉄道ファンにとって必修項目のひとつだ。ドリフターズの志村けんしか知らない人にも、ぜひ彼の役者としての素晴らしさを観てほしい。
現在はネット配信で視聴できる。定額料金配信サービスはHulu、U-NEXT、Amazon Prime Videoで見放題対象だ。作品ごとに料金を支払うレンタル配信サービスはYouTube、Google Play、ビデオマーケット、TSUTAYA TV、楽天TVにある。
外出自粛という時期でもあるし、故人を偲び、名作を楽しもう。